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第13話
見慣れた青色の扉を開く時、初めてこの場所を訪れた時と同じくらい緊張した。
オレンジ色のライトが照らす心地よい薄暗さへ足を踏み入れると、カウンターに座る客と談笑していた雪哉が顔を上げた。
「いらっしゃい」
反射的に口にしたあと、理宇とその後ろに立つ男の姿を見るなり、雪哉はニンマリと笑った。
「ここ座り」
カウンターの左端、理宇の指定席を指差して、いつも通りおしぼりの用意を始める。
「新くん、よう来たね。待ってたよ」
理宇の隣りに座った新に意味深な笑みを向けた。新は少しだけ困ったような笑顔で、「こんばんは」と返す。
理宇は店内のざわめきと突き刺さる視線を肌身に感じて、掛けたばかりのスツールに座り直した。
通いなれたいつもの場所、いつもの光景なのに落ち着かない。
照れくさくて、雪哉の顔もろくに見れない。
無意識に助けを求めるみたいに横目で新を見ると、すぐに視線に気づいてくれる。
「いい雰囲気のお店だね」
新の言葉に理宇は、「うん、だろ」と強張った笑顔で返した。
それぞれの前におしぼりを置いたあと、雪哉が仕切り直すように胸の前で両手を合わせた。
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