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「だけど、理宇は俺のこと絶対そんな風には見てくれないって思ってたから、気持ちに蓋をして諦めようとした」
不意に視線を感じて隣を振り向くと、新は雪哉ではなく理宇を見ていた。
「それでも全然ダメで、だから社会人になるときに決めたんだ。俺が……もう少し理宇みたいにかっこいい大人になれたら、自分の全部をかけて理宇に気持ちを伝えようって。予定、かなり早まっちゃったけど」
胸が詰まって、言葉が出てこなくて、ただ「うん」と呟くことしかできなかった。
理宇と新の心情を慮ってか、質問をした当の雪哉は何も口を開かなかった。やがて他のカウンター席の客からオーダーが入って、その準備に取り掛かる。
「俺、全然かっこいい大人じゃないけど」
しばらくの沈黙のあと、ぼそぼそと理宇が呟く。
「かっこいいよ」
「いくない」
「理宇は仕事してるときの自分が、人の目にどんな風に映ってるか知らないんだ」
得意げに笑う新の顔が可愛くて、理宇は二重の意味で照れてしまう。
「お客さんみんな理宇のこと好きになっちゃうんじゃないかって心配になる」
複雑そうに笑う新の表情が、理宇の心臓を直撃する。
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