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「えー、ないない」
軽く答えたつもりの声は涙声で、理宇はそれを誤魔化すためにグラスを勢いよく呷った。
「こーら、弱いのにイッキとかせえへんの」
他の客と話していた雪哉が戻ってきて理宇を窘める。
「まあ優しく介抱してくれるカレシがおるからかまへんか」
からかいの言葉に、理宇は責める視線を向けた。雪哉は不敵な笑みでそれを迎え打ったあと、理宇の二杯目を作りに掛かる。
「ってことは自分ら、はなから両想いやったんやねぇ」
ロングカクテル用のグラスにリキュールを注ぎながら、雪哉がしみじみと呟く。
「俺、絶対雪哉くんに、「やからとっとと告ってたらよかったやん」って言われると思ってたんだけど」
雪哉の口調を真似るのを失敗して、奇妙なイントネーションになった理宇を、雪哉は「それ何弁やの」と笑う。
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