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「そんなことあらへんよ。多分これが自分らのタイミングやったんやろ。まあ、ピンクちゃんの完全片想いやと思ってた時は、ええ加減見切りつけたら?とは思とったけど」
綺麗な所作で酒を作る伏し目がちな雪哉の表情は、とても穏やかだった。
「遠回りしてもうたとか思うかもしれへんけど、その分感動もひとしおってやつやん。お互いきつい思いした分、あっさりくっついてたもしもの世界よりずっと、相手を大事にしたいって思うはずやで」
雪哉の柔らかい声に、ふんわりと温かいものに包まれた気分になる。
今だけじゃない、雪哉はずっと優しかった。
呆れたり、面倒くさそうにしながらも、いつも理宇の話を聞いてくれた。
「雪哉くん……ありがと」
瞳を潤ませる理宇に苦笑しながら、グラスを理宇の前に置いた。赤紫色の液体は、理宇が前回一口も飲むことができなかったカシスソーダで、口をつけた理宇は、「やっぱり美味しい」と鼻をすすったのだった。
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