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「や、いいって! ごめん、歩ける、だいじょぶ」
焦ってぶんぶんと両手を交差する。
それでも新は立ち上がらない。
屈んだまま振り向いて、照れくさそうな表情で理宇をじっと見てきた。
「俺が、理宇に触ってたいから……口実」
少しだけ子どもっぽい表情もその言葉も、理宇の胸を深々と貫いて、甘痛い衝撃に奥歯を噛みしめる。
本当は自分も店にいる時から新に触れたかったので、手に持っていたスポーツバッグをいそいそと肩掛けに変えた。「お邪魔します」と小声で言って広い背中に身体を預ける。
酔いのせいかいつもの叫び出したいみたいな気恥ずかしさがほとんどなくて、心地よさに素直に甘える。肩口に顔を埋めてぎゅっと抱き締めたら、新が「そのままちゃんと掴まってて」と言って歩き出した。
「雪哉さん、すごく優しい人だね」
「うん、頭上がんない」
大通りを避けたルートを進んでも、これからが本番の夜の街だから人出は多い。行きかう人々から視線を感じるものの、今の理宇はあまり気にならなかった。
俺、酔ってるから、と居直って、思う存分酔っ払い特権を享受する。
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