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「で、工作用のハサミで新の髪切って、母親におもいっくそ怒られたんだっけ」
「うん、よく覚えてる。でも結構上手に切れてて、怒ったあと感心してた」
思い出し笑いをする新に、ポリ袋ではなく店のロゴ入りのカットクロスを装着していく。
ウッドテイストの温かみのある店内には、ノリのいいハウスミュージックが流れている。
セット面4席、在籍スタイリスト6人のヘアサロン【LiB リブ】は、都内のサロン激戦区の一画に店を構える。大型店舗でもなければ、飛びぬけて人気店というわけでもないが、リピーターが多く、安定した経営を維持していた。
アシスタントを経て、スタイリスト4年目の村瀬理宇は、女性客が多いこの店の中でも、メンズカットを担当することが多い。
「理宇は子どもの時から手先が器用だったな」
理宇にとって一番長い付き合いの指名客である男が、懐かしむように柔らかな笑みを浮かべる。
隣の席を見てみれば、女性客が笑う新の横顔をぼーっと見つめていた。彼女を担当する理宇の同僚も、ドライヤーを持ったまま動きを止めて以下同文だ。
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