第2話

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「失恋したの?」  不意に背後から掛かった声に、びくりと肩が跳ねた。振り向くと、テーブル席にいた男の一人が、グラスを手に近づいてくる。 「実は俺も先月フラれたばっかなんだよね」  有名ブランドのロゴが入ったシャツに、黒のスキニーパンツを着た男は、理宇の隣りのスツールへと腰を下ろす。 「他の女と付き合うんだって。バイとか聞いてねぇし」  どう答えればいいのかわからなくて、黙ったままでいた。 「髪色可愛いね、歳いくつ?」 「21、です」  甘ったるさの中にスパイスがまざった匂いは、男の香水のようだった。 「若っ、どうりでお肌ツルツルなんだ」  そう言って伸ばされた手は、無遠慮に理宇の頬を撫でる。湿った感触に不快感が滲んだ。 「近くで見るとすげぇ可愛いね。よく言われるでしょ?」 「言われたことないです」 「またまたー。めっちゃ可愛いって。俺めちゃくちゃ好みなんだけど」  男は大声で笑ったあと、カウンターに肘をついて頬杖をする。
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