第2話

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「ねぇ、フラれた者同士、何かの縁だと思ってさ、俺と新しい恋始めちゃわない?」 「え……」  驚きで理宇が身を引くと、男はその分以上に身体を寄せて距離を詰めた。 「場所変えて2人だけで飲み直そうよ。俺穴場知ってるから」  理宇だけに聞こえる声で囁いて、男はスツールを下りた。 「あとで返事聞かせて」  わざとらしいウインクをして、部屋の隅へと歩いていく。角にある扉の先はトイレのようだった。 「大丈夫?」  呆然と男が置いて行った空のグラスを見つめていると、カウンターから声が掛かる。 「もしも断りづらいんやったら間に入るけど」  男のグラスを回収し、テーブルの上を拭きながら、店主が言った。  黙り込んだ理宇を急かすことなく、店主は悠然と煙草をくわえて火をつける。  吐き出された煙が空気中を漂うのを見つめながら、自分はどうしたいのだろうと理宇は考えた。
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