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「だいぶ重症やな」
店主が「誉め言葉やで」と付け足して笑う。
その時、背後で扉が開く音が聞こえて振り向くと、トイレから出てきた男と目が合う。またカウンターへ来るのかと思いきや、意味深な笑顔でひらひらと手を振って、もといたテーブルへと戻っていった。どうやら理宇に考える猶予を与えてくれているらしい。
理宇は店主に向き直って、再び口を開いた。
「本当に重症なんです。気持ちが膨らんでいくばかりで、自分では止められなくて。だから無理やりにでも止めたいって思って、ここに……」
誰よりも新の幸せを望んでいるはずなのに、別れてしまえばいいという気持ちが消しても消しても湧いてくる。
そんな自分が苦しかった。
もしも他の誰かを好きになれたら、新に恋人ができたことを心から祝福できるかもしれない。
だから理宇は、あの男の誘いに乗じるべきなのかもしれないと思った。
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