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「失恋してないので」
「え? でもさっき、好きな奴に恋人できたって泣いてたじゃん」
「相手が誰を好きになろうが、俺はずっと好きなので。だから失恋してません」
この男とどうなろうが、新への感情が薄れることはない確信がすでにあった。
それをわかっていて関わりを持つことは、なんの意味もない。
ぶはっ、と笑いを漏らしたのは、理宇でも男でもなく、カウンターから2人を見守っていた店主だった。
「あかんわ、この子手ごわすぎやで。大人しく引いとき」
まだ収まらない笑いを堪えながら、店主が言う。
男は「不毛すぎだろ」と理宇に捨て台詞を吐いて、テーブルへと戻っていった。
「あの、ありがとうございます」
居住まいを正して頭を下げると、「なんもしてへんよ」と返ってくる。
「はーあ、久しぶりにめっちゃ笑ったから、今日は奢りにしとくわ」
店主の申し出に、理宇は目を大きく開く。
「またいつでもおいで。相手の愚痴でも自慢でも、なんでも聞いたげるわ」
店主はそう言ったあと、「あーツボった」と呟いたのだった。
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