第5話

8/21
前へ
/416ページ
次へ
 そんな時、店のドアが開いて男が2人入ってくる。理宇も顔見知りの常連客は、「おっす」と陽気にカウンターに向かって手をあげてから奥のソファ席に慣れた様子で向かう。2人が取りあえずビール派だと心得ている雪哉は、オーダーも聞かずグラスを取り出して準備を始めた。 「ま、秘密にして耐え忍ぶんでも、ええ機会や思ってぶち当たってみるにしても、どっちが正解ってことはあらへんよ。結局決めるのは自分自身やしな」  傾けたグラスに黄金色の液体が注がれていく。  雪哉は頂点にふんわりとした白い泡が浮かんだビールを2つ完成させると、おしぼりと一緒にトレーに載せた。 「どっちを選んでどうなっても話は聞いたるから」 「雪哉くん……」 「せいぜいドッキドキ同棲ライフを楽しんどき」  トレーを手にカウンターから出ていく雪哉の背を見つめながら、「だから、同棲じゃないって」と呟いた。
/416ページ

最初のコメントを投稿しよう!

715人が本棚に入れています
本棚に追加