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その日最後の予約客の施術を終えると、20時半になる前だった。少し押してしまったが、今から帰れば21時までには新の部屋に戻れそうだ。
どこか浮かれた気分でお客をお見送りし、後片付けを手早く済ませる。
「ねえ、帰ったら新くんが待ってるとか、ちょっと代わってくれない?」
スタッフルームに入るなり、メイクを直していた同僚に真顔で詰められる。
理宇の部屋が水浸しになり、しばらくの間新の部屋に泊まっていることは、スタッフみんな知っていた。
「彩ちゃん、これからデートなんでしょ」
イケメンに目がない先輩を苦笑いでたしなめてから、「お先です」と早歩きで部屋を出た。
ロードバイクに乗る前に、スマホを取り出してタップする。
「もしもし新? 今から帰るけど、なんか買ってく?」
『理宇、お疲れ様。もう用意してあるから大丈夫』
「あ、そうなんだ、ありがと。腹減ってるだろ、先食ってくれてても……」
『ううん、待ってる。ゆっくりでいいから気を付けて帰ってきて』
「お、おう。じゃああとでな」
通話を切って、ビルの駐輪スペースでジタバタする。
待ってる、って可愛すぎか!
周囲に人がいれば完全に不審者の動きで悶えたあと、すぐにサドルにまたがった。
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