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◇ ◇ ◇
予兆もなしに唐突に振り出した雨が、帰宅途中の理宇の身体を激しく打つ。
新の家まではもう少しだから、このまま突っ切ってしまおう。……その判断は誤りだったかもしれないとすぐに後悔した。
何もこんなに降らなくても!
ってか降るのあと5分待ってよ!
自然現象に文句をつけながらペダルを漕ぐ足を速めるが、大きな水の粒は一瞬で理宇の髪も衣服もじっとりと濡らす。
先日の自宅の水漏れといい、最近の自分は水難の相でも出ているのかもしれない、と理宇は思った。
新のマンションに到着する頃には、もう衣服どころかパンツまで濡れていた。
いつものように合鍵で入り口を抜けて、部屋の前でインターホンを押す。
しかし反応がないので部屋の扉も合鍵で解錠した。
照明が自動点灯した玄関には、新の靴はない。
今夜新は残業で、帰宅は理宇と同じくらいになると朝に話していた。
理宇が店を出る前は、まだ帰宅の連絡も来ていなかった。
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