第1部 第1話

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第1部 第1話

 子ども用の小さな丸椅子に、ちょこんとお行儀よく座る背中。そのうち落ち着かなくなってきたのか、もぞもぞとお尻を動かし、左右に揺れる。  理宇(りう)はキッチンで見つけた黒いポリ袋を、両手を精一杯広げて開き、小柄な身体に覆いかぶせた。あらかじめ底の中心に開けておいた穴から頭を通そうとするが、小さすぎたのか額の部分で引っかかってしまう。 「ごめん、だいじょうぶ?」  ぐいぐいと下に引き下ろすと、切り口が伸びて形のいい後頭部がすぽんと顔を出す。 「だいじょうぶだよ」  背後から覗き込むようにして確かめると、振り向いた顔はにこにこと笑っていた。  お日様みたいな(あらた)の笑顔は、理宇の心のなかもポカポカにする。  新を見ていると、ぎゅうっと抱き締めてぐりぐりしたい気持ちでいっぱいになった。  再び正面を向いた頭に向かって、霧吹きを噴射する。いつもは理宇の母親が観葉植物に吹きかけているものだ。濡らした髪を丁寧にコームで梳いていった。
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