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「空野さん、どうだった? 楽しめた?」
老人ホームでの公演が終わり、衣装や小道具を紺野家のコレクションルームに運び込み終わると、もう夕方になっていた。
紺野先生が出してくれたカフェオレを呑んだら、緊張が解れたのか疲れがどっと襲ってきた。
「緊張しすぎて、あまり覚えていなくて」
「ひと月ちょっと前に無理なお願いをしてしまったものね」
無理なお願いというのは、理人さんとのダンスとは別に、『虹の彼方に』を録音ではなく、その場で歌って欲しいというもので。ダンスやお芝居があるわけじゃなかったし、歌詞も覚えていたけど、やっぱり人前でひとりで歌うとなると、毎日練習が必要で、本当に目まぐるしいひと月だった。
「それは、私のダンスが間に合わなかったからで……」
理人さんとチャールストンダンスを練習していたのは、『TEA FOR TWO』という映画に出てくるダンスをする為だったんだけど。それとは別に、『オズの魔法使いに会いに行こう』という歌用に、蓮見さんが振り付けをしたというダンスを覚える予定が、とてもじゃないけど人前で踊れるようになるとは思えない出来で。
結局、紺野先生の判断で私はダンスを一つに絞って、もう一つは歌にしようということになったのだ。
「歌、良かったよ。お世辞じゃなくて、本当に。珠理ちゃんの動画とも合っていて、幻想的な雰囲気でさ。ホームのおばあちゃんが、いいわねえって言っていたし」
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