プロローグ

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 小さい頃、おばあちゃんの家でよく過ごした。仕事が忙しいお母さんの代わりに、おばあちゃんが私を預かってくれていたから。  古い洋画が好きだったおばあちゃんは、たくさんのビデオテープを持っていて、大きなTV画面にいつも映しながら生活していた。いつ壊れてもおかしくなさそうな年季の入ったビデオデッキを大事に使いながら。  大人の雰囲気漂う洋画は、当時の私にはまだ早かったのか、見ているうちに寝てしまうこともあったけど、おばあちゃんと過ごすその静かな時間が私はとても好きだった。時々画面を見ながら、ぽつりぽつりと当時の思い出を語ってくれる、無口なおばあちゃんのことも。  お母さんは、「おばあちゃんは無口すぎて何を考えているのかよくわからないのよね」と時々愚痴を言っていたけど。私にとっておばあちゃんとふたりきりで過ごす時間は、とても安らげるものだったんだと思う。  おばあちゃんが見せてくれた映画の中で、私が楽しみにしていたのが、ミュージカル映画だった。 『メリー・ポピンズ』、『マイフェアレディー』、『王様と私』、『雨に唄えば』……。  もうどんな話だったか曖昧になってしまったものもあるけど、歌とダンスが散りばめられた世界は、キラキラと輝いて見えて。  中でも繰り返し見たのは、竜巻で別世界に飛ばされちゃった女の子・ドロシーが、道中出会った仲間たちと助け合いながら、大魔法使いオズのいるエメラルド・シティを目指す、『オズの魔法使』という映画。  歌やダンスも好きだったし、エメラルド・シティや魔法の世界にも憧れていたけど、何より惹かれていたのはドロシーと仲間たちの友情だった。  わらが詰まった頭のカカシ  さび付いたブリキの木こり  臆病なライオン  みんなちょっと変わっているけど、とても仲が良くて。  いつか自分にもそんな大切に思いあえる仲間ができるのかもしれないと、当時の私はワクワクしながら見ていたんだと思う。
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