3 信じてくれる人がいれば独りじゃない

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 そんな中、精も根も尽き果て椅子にだらりと座り込む由理香の肩を綾子先生が軽く叩いた。 「田島さん、あのね」 いつもであれば信頼する故に受け入れる綾子先生の手だが、今回は悍ましい魔女の枯れ木のような手に触れられた感を覚えた由理香はその手を叩き払ってしまった。 「た、田島さん?」 「触らないで! 先生、あたしのこと信じてくれなかったでしょ!」 「そ、それは……」 「確かに田島さんは実力はあります。ですが、こうしてお金を盗んでしまった以上はチア部にも置いておけません」 それを聞いていた由理香が叫んだ。 「綾子先生! あたし! 違うんです!」 綾子先生はそれを聞いて目を閉じ、そっぽを向いた。 綾子先生は完全に由理香を見限っていた。あの状況では仕方のないことであったが、由理香の心を裏切るには十分なものであった。それから、由理香の潔白が証明された後に声掛けをされても都合の良い手のひら返しに過ぎない。現に綾子先生が声掛けをしたのはP☆Splashのセンターに対するメンタルチェックのためだけで、田島由理香個人を気を遣うものではない。それからメンタルケアと移り、慰めの美辞麗句を並べるが、由理香には何一つ届かない。 「じゃ、じゃあ…… 今日の部活だけど。フィニッシュのリフトアップの練習するからね」 これだけ言って綾子先生は教室から去った。そして、入れ替わりにクラスメイト達が由理香の元へと集まってくる。先程まで「ドロボー」などと罵倒を飛ばしてきた者達による謝罪のシャワーである。 由理香はその謝罪全てを受け入れ、何とか無理をして作り上げた笑顔でその全てに対応する。だが、その心根の奥では「この子達はあたしを信じてくれなかった」と不審の念を懐き「この子達は本当の友達じゃなかった」と、見限っており、これからは「表面上(うわっつら)だけの薄っぺらい友達でいてね?」と心の中で挨拶をするのであった……
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