3 信じてくれる人がいれば独りじゃない

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その日の6年1組は二時間目以降全てが自習で終わった。 あずさであるが…… 誰も声をかけない、だが、その場が針の筵と言う事実は分かっており、自習の様子を見に来た教師に早退を告げ、三時間目の途中で教室を後にした。その瞬間に一部の男子達はあずさの机にマジックペンで「ドロボーの娘」「最低」「バカ」「あたおか」などと悪口を書いていく。クラスメイト達が由理香への謝罪を行っている同じ教室でそれが行われるのは矛盾を孕んだ狂気であった。 由理香は謝罪の波が落ち着いたところで悪口のキャンバスと化したあずさの机を雑巾で磨こうとした。すると、ガキ大将の男子に止められた。 「おい、何すんだよ」 「え、掃除だけど」 「何だよ、お前のためにやってやってるんじゃねぇかよ」 「あたし、頼んでない」 「お前、良いやつだな。大室のババアにあんなことやられたくせに」 「……だからって、あずっぺ…… ううん、大室さんは関係ない」 由理香はあずさのことを渾名呼びから名字呼びに切り替えてしまった。それが何故かは自分でも分からない。 「親の因果が子に報いってやつだよ! 親が悪いことやったらその子供にも悪いことが返ってきても何も言えねぇんだよ!」 「でも、良くないよ」 「お前の為にやってるんだぞ? さっさと雑巾しまえよ?」 そこに正多が割り込んできた。その片手には雑巾が握られていた。 「それ、お前の正義感の満足の為だよね? 田島の為じゃなくて自分の為じゃないか」 「な、何だよ……」 「偽りって漢字、あるでしょ? ニンベン、つまり人の横に為って書くの。人の為、人の為に言っている奴は偽りってこと」 「な、何だと!」 「そうそう、親の因果が子に報いだけど。俺、その考えは正しいと思うよ。親は自分より、子供が辛い目に遭う方が万倍は辛いって言うからね。例えば、イジメやってた奴が親になって、自分の子供がイジメに遭っても仕方ないってことさ。ま、大半の親は自分がやってたイジメを棚に上げて、被害者ぶるもんだけどね」 「だったら止めんなよ」 「じゃ、お前が今からやるイジメの報いが、10年後だか20年後だかに生まれてくる子供に返ってきていいの?」 「はぁ!? 俺まだ子供だし! わかんねーし!」 「ま、俺らみたいな子供にはわかんないのは仕方ないか」
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