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それはそれで危ない人だな…… 由理香は苦笑いを見せた。
「でも駄目、児童館に一緒に行くような友達いないし。そもそも一緒に遊びに行く友達はもう……」
そう言えばこいつは親友と別れたんだったな。もう一人の親友もおそらくは…… 児童館を勧めたのは余計なことだったかなと、目を反らした。反らした目線の先にはこちらをチラチラと見る一人の少女がいた。俺みたいな探偵に出来るのは真実を明かして社会的に救ってやるだけで心までは救ってやれない。心を救ってやれるのはやはり友人である。正多がそんなことを考えていると、由理香は頭を下げた。
「あの時は、ありがとうね」
「え? 何が?」
「学級裁判の時、助けてくれたこと。みんなから『ドロボー!』って言われて誰も味方がいない中助けてくれたの、スッゴク嬉しかったんだよ」
正多はここで首肯し「そんなことはない」と謙遜すべき場面だが、あえて首を横に振った。
「いや、俺より感謝すべき奴がいるぞ。実はな…… 俺、お前を無罪だって確実に信じることが出来なかったんだよ。おっと、田島がやったって意味じゃなくて、田島がやってないって根拠がなかったんだよ。実はもう少し様子見るつもりだったんだ」
「え? こんな不安な状態で助けてくれたの?」
「うん、藤原が真っ先に田島を庇っただろ? 根拠もなぁんにもないのに、ただ、昔からの『友達』ってだけで庇ったんだよ。あれ、なかなか出来ないもんだぜ? フツーは目の前で給食費が出てこれば犯人は間違いなし、どんな大親友だって一気に疑うってもんさ。あれがなかったら俺も動いてなかったかもしれない、あんな曖昧な理由で庇われても無力なだけだしな、ほっとけなかった」
「あたしだって、立場が逆…… そう、誰かの給食費が盗まれて、あずさ…… ううん、友達のカバンから出てきたら、信じられないとは思いつつも疑うし、酷い言葉を言っちゃうかもしれない」
「そういう状況にも拘らずに、田島を庇った藤原こそが本当の友達だよ。前に友達とは何かって話をしたと思うけど、覚えてる?」
「うん、覚えてる」
「どんな局面でも絶対に裏切らない友達一人さえいてくれればいいんじゃないかな? 色々あったかもしれないけど、そいつと向き合ってみたらどうだ?」
正多はスッと立ち上がり、遠くの席からこちらをチラチラと見ていた舞を由理香の前に座らせた。そして、何も言わずに図書室を後にした。
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