4 エピローグ また別のお話に向かって

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そうしているうちに起こった二度目の脅迫電話。二度目も受け付けたのは偶然にもちぐさ先生で、それが愛菜にとっての幸運だった。おそらくだが、他の教師が受け付けていれば運動会の中止を決定させることは出来なかっただろう。 愛菜が作ったペットボトル爆弾だが、爆発とは言え「爆風」のない、単なる「強烈な破裂」を起こすものである。警察がそんな爆発の跡を見ても「爆弾が爆発した」とは思わずに、ペットボトルの過冷却による事故と見るだろう。現にちぐさ先生が爆発現場を見に行った際には破裂したペットボトルが転がっており、床の水溜りからドライアイスの煙をもうもうと立てている状態であった。これでは到底爆発現場に足り得ない。脅迫にならないのである。 「所詮は子供の浅知恵か」 ちぐさ先生は市販の花火から火薬だけを取り出し、即興性はあるが、殺傷力のない爆弾を作り上げていた。火薬に火をつけて小さな爆発をさせるだけの極めて単純な作りのものである。本来は自分が運動会を中止にさせるための切り札として使うつもりだったのだが、愛理の子供の浅知恵のフォローのために使うことにしたのだった。 フォローは大成功、火薬が使われたことで「本気」であることが伝わり、運動会の中止は正式に決まったのだった。警察で行われた職員会議でも「火薬」が使われていることで、イタズラの線は消え「運動会の中止」を反対する先生は誰一人としていなくなってしまった。 細かなフォローとしては「公衆電話の指紋の消去」である。爆破現場の細工後、アシが付かない脅迫電話の発信先が公衆電話であると閃き、場所も真っ先に学校前の公衆電話であると考えた。ちぐさ先生は愛理のフォローのために警察が来る数分前に素早く指紋を拭き取ったのだった。この行動がなければ警察は校外清掃で公衆電話の清掃が行われた事実から推理を組み立て、愛理に辿り着いていただろう。 しかし、ここで予想外の事態が起こる。愛菜が警察に自首をしてしまったのである。 そのことで「脅迫犯」は舞台から退場、学校に爆弾を仕掛ける者がいなくなり、運動会は一気に開催の流れへと傾いた。ちぐさ先生は、同僚達に向かって「何でこんなに運動会がやりたいの? この人達?」と舌打ち混じりに呪詛の言葉を飛ばすようになっていたと言う。 ちぐさ先生はこれ以上運動会を中止に導く手段が思いつかなかった。電話にせよ手紙にせよどこからアシがつくかが分からない、電子メールなんかは論外だ。しかし、考えてみれば自分は運動会そのものは開催して欲しいと考える立場の人間、見たくないのはあずさがセンターに立つことがないチアリーディングのみ、当日、体調不良を訴えることも考えたが、あずさがセンターに立てないのは変わりがない。
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