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そんなある日…… 由理香が久保先生のケアを受けていると、意外な来客が訪れた。
「どーもー」
「あら、多潮くん、お久しぶり」と、久保先生。
来客は正多だった。正多の顔を見て由理香は驚いた。
「おう、田島じゃねぇか」
「どうしたの多潮くんこそ、ここはスクールカウンセラー室よ」
「何? 悩める小学生しか来ちゃいけないの?」
「いや、そういうもんでしょ?」
二人がこんなやり取りをしている間にも、久保先生は正多にコーヒーを点てていく。
久保先生は砂糖もミルクもソーサーに乗せずに正多にコーヒーを差し出した。正多はそれを啜りだす。
「多潮くん、砂糖とミルクはいいの?」と、由理香。テーブルに乗っているシュガースティックとミルクに手を伸ばすが、久保先生が首を横に振る。
「いいのよ、この子はブラックしか飲まないのよ」
「多潮くんの好み、知ってるんですね」
「そうよ、この子は四年生の途中に転校してきてから五年生になるまでずっとここにいたもの。ブルーマウンテンからキリマンジャロにコーヒーを変えても気がつくぐらいにここに通い詰めてるわ」
「オバチャン、昔の話は勘弁してよ」
本来なら「久保先生」と呼ばなければいけないのに「オバチャン」と呼ぶところ、正多と久保先生は極めて仲の良い関係であると由理香は察した。
正多はコーヒーをぐいと呷ると、この澤北小学校に転校してきた時のことを語り始めた。
「俺、私立の小中高大一貫教育の学校通ってたのよ」
そう言えば、このセーラー服は県下ナンバーワンの有名私立の制服だった。由理香は正多の制服を見る度に既視感を覚えていたのだが、電車の中やチアリーディングの大会で何度か見たことを今になってやっと思い出し手をぽんと叩いた。
「それがなんでこんな公立の学校なんかに?」
「家柄が良ければ、悪いこと何やってもいいって学校の方針についていけなくなったからかな?」
すると、久保先生が話を止めにかかる。
「多潮くん? 話してて辛くならないの? 以前はこのこと話そうとしただけで過呼吸起こしたじゃない」
心配しなくていいですよ。正多はそう言いたげに軽く頷いた。
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