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「何? 親友がいなくなったからって親巻き込んで転校までするのはやりすぎだって?」
「あ…… いや…… 別にそうじゃないけど……」
「俺にとってあいつは、親友を超えた何かだったからね。俺、幼稚園の頃からずーっとチビでね、回りから頭一個分ぐらいは背低かったんだ。今も変わらない。でも、IQテストの結果は物凄く良かったせいか、先生達は特別扱いしてくれたんだ。そうしたら『チビのくせに特別扱い』ってイジメられるようになったんだ。そんな時に庇ってくれたのがさっき言った親友。いつも強気でいろとか、下を向かずにいつも上を向いてろとか、胸じゃなくて腹を張って歩けとか、チビでもイジメられないように生きてく術を教えてくれた。あいついなかったら、小学校二年生か三年生で自殺してたかもしれない。あいつは俺にとっては全てかも…… しれない」
「多潮くん……」
「いつも言われてたんだ『正ちゃんはアタマいいから、そのアタマの良さで人を助けてあげられる探偵、それも名探偵になれる』って。それを言ってくれた本人を助けることが出来なかったのは悔しい」
「もしかして、クラスで起こる事件に首突っ込むのって」
「うん、あいつが言う『人助け』をしてるんだ。飼育小屋の山羊がいなくなった時は日系人の友達が疑われていたし、ミナミヌマエビが全滅した時は飼育係が疑われてたしね、そういう奴らが必死に潔白を訴えるのを見ると、力にならなきゃって思うんだ」
「そして、あたしを助けてくれた」と、由理香が言ったところで正多はコーヒーを飲み終えた。それと同時に予鈴が鳴る。
「いけね、授業だ。田島、じゃあな」
正多は走りながらスクールカウンセラー室を後にした。久保先生はカラになったコーヒーカップを纏める。
「あの子、今でこそ明るいけど、ここに来た当時はさっきの親友の件で失語症も同然になってたのよ。半年以上、ここでコーヒー飲んでてやっと落ち着いた感じかな?」
「失語症って、喋れなくなること?」
「余程、親友を失ったことが辛かったんでしょうね。今は明るく努めてるけど、友達とかには距離おいてて、冷めた感じは今も変わらない」
「あ…… なんかわかります」
「仲良く、してあげて欲しいな」
「はい! ところで…… 多潮くん、何しに来たのかな?」
「コーヒー飲みに来ただけよ、時々漫画も読んで帰るかな」
あいつらしい。由理香は苦笑いを久保先生に向けるのであった。
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