でるな。

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でるな。

 これは、僕が小学生だった頃の話だ。  高校生になると同時に上京して、今はすっかり東京に馴染んでいる僕だったが。中学校の頃までは、ずっとド田舎の地元から出たことがなかったのだった。  どれくらいの田舎と言うと、コンビニに行くだけで歩いて三十分かかり、最寄駅というものまで自動車で何十分もかかり、小学校中学校まで徒歩一時間かけて通っていたレベル――とでも言えばいいか。コンビニに三十分で行けるようになっただけマシ、と素で両親には言われたほどである。だだっ広い畑やら森やらがどこまでも広がり、近所の商店ですれ違う人はみんな顔見知り。ようは、そんな狭い村社会が、僕の全てだったというわけだ。  だから学校などでちょっと悪いことでもすると、すーぐみんなに広まってしまうのである。 「カズミ君、こんにちはー」  学校帰りに商店に寄って駄菓子を買うと、お店のおばあちゃんがにこにこと声をかけてくる。 「今日、学校の給水タンクに登って叱られたんだって?だめよー危ないんだから。足でも滑らせたらどうするの?うっかり業者が蓋閉め忘れてたりしたら」 「ちょ、ばーちゃん!何でそれ知ってんの!?今日の朝のことなのに!!」 「残念でした、あたしはなーんでも知ってるんです。ばーちゃんをナメないで頂戴ね」  まあ、こんな具合だ。何故朝にやらかしたちょっとした悪戯が、学校から離れた場所に住んでいるはずのおばーちゃんの耳に入っているのか。絶対先生か生徒にスピーカーがいてばーちゃんたちに全部漏らしてるだろ、としか思えない。誰が見てるか分からないということもあってか、村の治安は大人しいものだった。少しでも怪しい人がいればあっという間にモンタージュが作られて村中の電信柱に張り出され、人の噂に上るという有様だからである。犯罪なんかできやしない、万引き一つでもしようものなら翌日から針の筵は間違いない――といった具合だ(だから上京した後で、クラスメートに万引き経験者が数名いたと聞いて驚いたのである。いや本当に、万引きダメ絶対)。  みんなが友人であり、家族のようなもの。アットホームと言えばいいが、裏を返せばルールを破った人間はあっという間に晒し上げられるという環境でもあったのだ。治安が悪化しないのは良いことである反面、どこにいても誰かに見張られているような居心地悪さを感じる時があるのも事実である。テレビやスマホで見る(家電を買うだけでも隣町まで車を走らせなければいけないのだから、その点は非常に不便だった)華やかな町の光景に、僕は幼い頃からずっと憧れを抱いていたのだった。穏やかな田舎での生活は気楽だが、刺激が足らないし不便であるのも確かであったのだから。  ただし。僕が全寮制の高校へ進学すると同時に上京すると決めたのは、それだけが理由ではなかったりする。
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