でるな。

2/6
前へ
/6ページ
次へ
 この村には、一つ奇妙なルールがあり、それに心底嫌気がさしてしまったからだ。そのルールとは。 「カズミくん、今日は遊んでないでさっさと帰った方がいいと思うわ」  その日、駄菓子屋のおばあちゃんは少し厳しい顔で僕にそう言った。 「その様子だと、天気予報見てないでしょ。夕方から一雨来るかもしれないっていうのよ」 「ええ?こんなに晴れてんのに?」 「晴れてても油断ならないのがお天気なの。私も無駄にながーく生きてるからなんとなくわかるんだけどね、こんだけ湿気が多いと、天気予報も当たるなってわかっちゃうのよ。これは絶対夕立が来るわ。おばあちゃんの勘を信じておきなさいな」  そう強く言われては、僕も引き下がるしかない。その日は小さなおせんべいとガム数個だけ買って、急いで家に帰ることにしたのだった。  ランドセルに傘が入っていなかったわけではないが、子供が使うような小さな折り畳み傘である。激しい雨に耐えきれるかどうかはかなり怪しかった。しかしそれ以上に問題なのは、この村の謎ルールである。それに少しでも抵触しようものなら、両親に厳しく叱咤されることを僕はよく知っていたのだった。  つまり。  夕立が来たら、急いで子供は家に入らなければいけない。大人もできれば避難して、全ても窓を閉め、カーテンを閉め、雨脚が弱まるまで絶対に外を見てはいけないというのだ。  これは、本当に“夏の夕方に、突発的に降る雨”にだけ適用されるものであるらしかった。何でそんな頓珍漢なルールがあるんだ?と疑問に思ったことはある。クラスの子供達もみんな不思議には思っているようで、学校では口々に噂されていた。例えばこんなかんじ。 『この村には、封印された恐ろしい妖怪がいるんだ。そいつは夕立が来る時にだけ、地面の下から這い出してくることができるんだぜ。そして、村の子供を取って食っちまうんだ。喰われた子供は、みんなの記憶からも消えちまう。だから、何が何でも屋内に避難しないといけないし、外を見てもいけないんだ。目があった子供は目をつけられて、家の中にいても襲われるんじゃないかって話ー』 『えーきっとそんなんじゃないって。あれだよあれ、この村には昔恐ろしいイケニエの風習があったんだよきっと!リキが言ってたんだ。雨が降らなくて困った時に、そのイケニエの全身の皮をはいで川に流したんじゃねーかって!ほら、川岸に赤茶のへんなおじぞーさんがあるだろ、あれ絶対その名残だっつーんだよ!生きたままイケニエの皮を剥ぐから、それはそれは凄い苦痛だったんじゃないかって……こええええ!』
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加