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『何でそういう下品な方向しか考えないわけ、男子は。まあ、あたしも幽霊とかそっちの方かなって思うけどー。昔、この村の池に飛び込んで無理心中した男女がいて、その二人が死んだのが夕立の時だったんじゃないかと思うわけ。で、二人は夏の、夕立の日だけ会うことができるの。だから二人の再会を邪魔しないように、みんな家に入るんじゃないかなって』
『少女マンガかよ!つか、もろに織姫と彦星じゃん』
『うっさい、あんたらのよりずっとロマンがあっていいじゃん!』
ようするに。誰も真相を知らないで、好き勝手妄想をくっちゃべっているだけなのだった。当然僕も知らない。ただ破ろうとするとめっちゃ叱られるから大人しく従っている、それだけなのだった。
その日も、僕は急いで家に帰った。おばあちゃんの話は正しかったらしく、歩いている間にも青空は灰色の雲にじわじわと侵食され始めている。これは本当に、局所的豪雨が来る前触れだと実感した。僕の父は村にある小さな工場で働いている人だからまだいいものの、畑や田んぼを持っている農家の人達は本当に気が気でないだろう。雨というのは、降りすぎても降らな過ぎても農作物に害を及ぼす、実に厄介なものだと思う。
「あ、カズミ!良かった帰ってきた」
ただいまー、と戻った僕を見て、母がぱたぱたと玄関まで駆けてきた。ちなみに、僕等の家は一戸建てである。というかマンションなんて洒落たものが、近隣に一つも立っていなかったというだけなのだが。
「帰って早々悪いけど、二階の窓閉めてきてくれない?おじいちゃんが、ほんともうすぐ降るだろうから急げって言うのよ」
「わ、わかった……」
どっちみち、僕の部屋は二階である。僕は急いで自室に行くと、ベッドの上にランドセルを投げた。カーテンを閉める前に、なんとなく窓の外の様子を見る。やはりと言うべきか、ご近所の家も殆どがすでにカーテンを閉め切っていた。一部の家だけがまだ、バタバタとカーテンや雨戸を閉めている最中といった様子である。
やはり、ここまでこの謎ルールが浸透されていると、気になってしまうのはその理由だ。二階の部屋のカーテンを全て閉め、手洗いうがいをしたところで僕は母に尋ねてみたのだった。
「ねえお母さんー。何で夕立の時、急いで家に帰らないといけないの?何でカーテン閉めないといけないの?なんで外見ちゃいけないの?」
子供達はみんな知らなかったが、両親は知っているかもしれない。前にも尋ねた気がするが、改めて尋ねると母は渋い顔をした。
「さあ」
「さあ、って……」
「実は私達も知らないのよ。雨に濡れて風邪をひいたらいけないからじゃないの?」
「それなら、家の中に入るだけでいーじゃん。ていうか、夏の夕立以外じゃ同じことしないよね?梅雨の時の雨とか、ふつーに傘さして家帰ったしー」
「うーん……」
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