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普段勉強苦手なタツ兄のくせに、こういう時は行動力がじゃぶじゃぶ溢れて来るんだな、と僕は変なところで感心してしまった。それで?と続きを促す。
「で、結論から言うと関係はしてたんだよ。……母さんが子供の頃に、この村の一部が水没するくらい雨が降ったんだ。この家があるあたりはちょっとだけ土地が高いし、川から離れてたから平気だったんだけど……川沿いの低いところがすげえ水浸しになったんだと。で、家が浸水しちまったところもあったけど、幸い避難が早くて人が死ぬってことはなかったんだ。もし避難してなかったら、犠牲者が出てたかもしれないって言われてた。……そう、人間は死ななかったんだよ、人間は」
人間は。その言い方に、なんとなく察した。人間以外には犠牲が出た。しかもその様子だと、畑や田んぼがダメになったということではないだろう。
「動物が死んじゃったとか?」
僕が言うと、彼は“正解”と頷いた。
「……どうしても知りたいってなら、カーテンの隙間をちょっとだけ開けて窓の外を見るのが早い。そろそろうちの前のあたりも“通る”頃だと思うから」
村のことが嫌いになるかもしれない、村の秘密。少し怖かったが、僕は意を決して窓に近づいた。いつの間にか、窓の向こうからは叩きつけるような雨音が響き始めている。此処はタツ兄の部屋だから、他の家族は来ない。この部屋から窓の外をちらっと見るくらいならバレないだろう、というのがタツ兄の考えなのだろう。
そして、彼が今も無事でいるということは、外を見てしまうと呪われるとか、そういうことはないということである。僕は意を決して、カーテンをほんの少しだけめくった。そして。
「ひっ」
小さく、悲鳴を上げた。何か、小さなものがぞろぞろと家の前を歩いて行くのが見えたからである。凄い数だ。十や二十なんてものではない。百、は間違いなく超えていることだろう。
震えながらも僕は、その“小さな者達”をよく観察してみた。そして気づくのだ。泥にまみれ、痩せ細り、ところどころ肉が剥げて骨さえも露出したゾンビのような集団、その正体は。
「……わんちゃん?」
思わず、掠れた声で呟いた。そう、それは大量の犬の集団であったのである。それも、どの犬も体が大きくない。小型犬――いや、恐らくはどれもこれも子犬ばかりなのだ。無惨な姿の犬達が、町中をふらふらと彷徨うように練り歩いている光景は、あまりにも異質なものだった。
「昔、クズなブリーダーがいたらしいんだよな」
タツ兄が、ぼそっと呟いた。
「ブリーダーにもまともな奴はたくさんいるけど、この村にいたやつはマジでやばいやつだった。劣悪な環境で、犬を大量飼育してたらしい。で、デカくなりすぎて売れなくなった奴、病気で死んだやつとかはかたっぱしからドラム缶に突っ込んで焼却してたって」
「悪魔かよ」
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