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征巳さんがいないのが、寂しかった。
彼の背中に抱きつくと、顔だけこちらに向けて笑う。
「まったく……うちの奥さんは、かわいすぎて困るな。ゆりか」
「はい?」
私の返事を聞きながら、彼は体もこちらに向けた。それから、私の顎に手を添える。
「キスしたい」
「風邪、うつりますよ」
聞いていないのか、彼は徐々に顔を近付けてきた。
「風邪じゃなくて、栄養をもらうよ」
「栄養?」
「そう。ゆりかのキスは、俺に力をくれる」
「そんな効果なんて……んっ!」
私の言葉は途中で、彼の口の中に飲み込まれた。熱い舌が口内で、動き回る。下がった熱がまた上がりそうだ……。
彼のシャツをギュッと握りしめ「はぁ……」と息が漏れた。
「ゆりか、大丈夫?」
「もう、征巳さんったら……熱がまた出たら、どうするんですか?」
「ごめん、ごめん。ご飯、食べようか」
征巳さんは、私の頭を軽く叩いてから、手を引いてダイニングテーブルまで行く。
彼が持ち帰ってきた紙袋の中には、なんと懐石弁当が入っていた。
「とてもおいしそうだけど、どこで買ってきたんですか?」
私がたまに買う弁当は、コンビニやデパ地下のが多い。征巳さんが買ってきた弁当は、容器も中身も豪華な感じで、高そうに見えた。
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