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12 領地とベリーパイ
「究極魔法・土、SUMOTORI」
SUMOTORIを呼び出して、大きな岩を運んでもらうことにしました。この岩たちは、拠点の壁になってもらいましょう。ね? いい考えでしょ。天然要塞になります。
「おおい」
ブラックナイトと王子が帰ってきました。ブラックナイト、すごい速いスピードです。止まれるの?と思ったら、急ブレーキ。さすが、伝説の名馬。
「走っていったとき、なんだか地震があったみたいだけど……。アリスたちは大丈夫? すごい揺れたよね」
「え? 地震なんてありましたか?」
ああ、もしかして……、岩の移動で、この地方は多少は揺れたかもしれません。
「ゴゴゴゴゴゴゴって大きな音もしたよ。あれは地鳴りじゃないかな」
王子は首をかしげています。
「……」
すいません、完全に私のせいですね。
「あれ? ちょっと待って……、あんな岩山の壁みたいな山、あったっけ?」
王子は首を捻ります。
あ、もうバレました。
「ふふふ。お嬢様が作ったんですよ」
ブラウンがマジックポケットからちらっと顔を出しました。
「ええ?」
王子の口が閉まりません。アホ面になってますよ。
「これで拠点要塞もできましたよ」
まあ、細かいことはいいじゃないですか。これで領地経営の下準備もできたってもんですよ。
ねえねえ、ところで、お腹空いたんですけど。ブラウン、まだご飯できてない?
あとは、リマーまで行って、陸路の確保をすれば一段落ってやつですね。そのまえに、今日はもう疲れたので、夕食を食べて寝ようと思います。
次の朝。
朝食を食べ終え、出発です。今日もいい天気です。空が青く、空気も澄んでいて、草原を元気よく進んでいて、いい気分のはずなんですけど……。
「なんか、やっぱり臭わない?」
風の向きに寄るんですが、何か臭いんです。マカミも鼻をひくひくさせています。
後は半分でリマーに着くと思ったのに。
この悪臭も陸路を使わない理由の一つだったんでしょうか。辺りには動物の死骸もあって、なかなかシュールな絵図になっております。
この匂い……。なんだっけ。調べようと思ったんですけど、拠点要塞を作っていたら、忘れていました。
「お嬢様、ほんとうに、その泥、気をつけてくださいね」
マジックポケットに入っていたブラウンが突然顔を出して、私に声をかけてきました。
「ねえ、これって何だっけ? ああ、思い出せない」
私は首を捻りましたが、あとちょっとで出てきません。悔しい。負けた気がする。
「黒くてくさい沼の水です。転んだら、ねちょねちょですよ。きのうの汚れは、まだ落ちないし……。本当に厄介なんです」
「えええ? そうなの? でも、この黒い水の正体ってなんだろう」
むくむくと湧き上がる探求心。
なんか発見できそうな予感がします。
「この黒い水のせいで、怖がって誰も通らないらしいですよ」
ブラウンはどうやらロックたちに話しを聞いたようです。
「ほうほう」
王子は指ですくってみました。指が黒くなりましたが、下草で拭くと綺麗になりました。
「うーん、指がキレイになってよかったけど、匂いはまだついているよ。この匂い、すごいな」
「くんくん。まあ、そうですねえ。手で触らないほうがいいですかねえ」
ただでさえ、黒いものは忌み嫌われる傾向が強いですからねえ。落ちない上に、こんなに臭くちゃ、敬遠されますよね。
「ねえ、ブラウン、ちょっと百科事典持ってきて」
「……お嬢様、何かやるんですか?」
「まあまあ。そんな心配しないでも大丈夫。この黒い水の正体を突き止めて、何ができるかなって考えるだけよ」
ブラウンは嫌そうな顔をしています。
「汚しませんか?」
「……」
え? そこ? 心配のところはそこですか。
「アリス様? 汚したらダメですよ、いいですか? この水がつくと落ちないんですからね」
「……はい」
「なら、いいですけど……」
ブラウンはため息をつきました。
「正体が分かって、有効利用できるなら、ぜひ活用しないとね。領地開拓ですから。それに、これをどうにかしないと、道もできないし……」
この黒い水はぜったい何とかしないといけません。
「では、お嬢様が調べ物をしているうちに、私は食材調達と昼食の支度をしますね。ブラックナイトをお借りしてもよいですか」
「ああ、いいよ」
「王子はアリス様の見張りとお手伝いをお願いします」
ブラウンがにこっと笑うと、王子は満面の笑みを浮かべる。
怖い……。この二人。仲良しさんになっている……。
王子が残るなら、いっしょに調べ物を手伝ってもらいましょう。百科事典ってどうしてこんなに重いのかしらね。
「マカミはここにいてくださいね。白い毛が黒く染まっちゃうから」
ブラウンはよいしょとマカミを持ち上げて、岩の上にのせました。ブラウン、実は怪力なのでは?
ぽかんとして見ていたら、「早く終わらせてくださいね」とブラウンに怒られました。
「う、う、うん」
空いた口が塞がりません。ブラウン、最強説……。
しかし……、調べても調べても、なかなか黒い沼が出てきません。ああ、肩が凝ってきました。
そんなに黒い川とか沼とかというものは、意外にないものなんですかねえ。どこかの国には有りそうなんだけど……。
しばらくしてブラウンがブラックナイトの背中に籠を2つ乗せて帰ってきました。
「ここからしばらくいったところに、薬草がたくさんありましたよ。ベリーも豊作なようで、たくさんとってきました」
ブラウンが籠の中を見せてくれます。
「ベリージュースに、ジャム、生のままたべてもいいし、パイもいいなあ」
やったぁ。食生活の向上は心を豊かにしますからね!
スイーツ歓迎!
「お嬢様は食いしん坊ですねえ。でも、パイはいいかもしれません」
ブラウンは鼻歌交じりにマジックポケットに入っていきました。
「あああ。バターがない!」
ブラウンががっくりした声を上げました。
「えええ」
そんなぁ……。残念です。非常に残念です。サクッとほろっとしたパイの生地に、濃厚なベリーの甘酸っぱさがところどころ染み込んで、とろんと流れて……。焼き立ても、冷めてからもすっごく絶品なのに。そんなあ。もう舌はベリーパイの気分なのに……。
がっくり……です。
私たちはいじけてお茶を沸かすことにしました。よろよろと立ち上がり、枯れた草木を集めます。
何かお茶菓子ありますかね? ベリーパイ……。
「火をつけますよ」
ブラウンは火の魔法を使いました。ブラウンはたいてい何でもできる優秀な人材なのです。
チロチロと火が燃え上がりました。
あーあー、ベリーパイ。
火を大きくするため、枯れた草木を釜にくべていきます。
「あれ?」
突然ぶわっと火が盛り上がりました。集めてある枯れ草を見ると、ところどころ黒い水がついています。
さっき王子が指を拭いた草なのかもしれません。
黒い水のついたところだけ、勢い良く燃える……。ねえ、これって、燃える水ってこと?
ちょっとまって……。
百科事典を取り出して、ページを開きます。
「あった! これ、やっぱり燃える水なのよ」
ふふふ、くさい水の正体は、燃える水でした。
立派な資源です。
これは原油です。精製すれば、透明になります。黒い水から透明な燃える水にすることができるはずです。
念のため、この黒い水が何なのか、解析魔法をフィリップにお願いすることにしました。
急いでサンプリングします。
服につかないように気をつけないと。絶対ブラウンに怒られるからね。
もしここで石油が採れるなら、何か新しいことが出来るかもしれません。とにかく特徴ある、貴重な資源が見つかってよかったです。
前向きに考えましょう!
この燃える水は、王都に持っていくと、大変珍重がられると思います。ハトラウス王国ではまだ石油は見つかってなかったはずです。石油を使ってなにかできるかもしれません。今後が楽しみです。
王子に別れを告げ、空間切り裂き魔法で、数秒後、我が家に到着です。ブラックナイトが潤んだ目でブラウンを見つめていましたが、ごめんなさいしました。王子は用事があると言ってましたが……、もしかしたら、親子水入らずにしてくれたのかもしれません。
数日振りの我が家です。意外に時間がたってませんね。でもやっぱり懐かしい気持ちが湧いてきます。
お父様とお母様が、私の魔法の気配を感じたのでしょう、ホールに出迎えに来てくれました。フィリップも階段の手すりを滑り降りてきます。お母様はちらっとみて少し嫌そうな顔をしましたが、きょうは大目に見るようです。
ブラウンは御小言発射3秒前。フィリップに目を見開いて、にっこりとしました。ああ、フィリップ。ご愁傷様です。懐かしの、お説教タイムを楽しんでください。
「お父様、お母様。ただいま戻りました」
「息災なようで……ほっとしました」
お母様が抱きしめてくれました。お父様は目頭を押さえています。私も思わず涙ぐんでしまいました。
「フィリップ、これよ。すごいでしょう?」
私はお説教中のフィリップに助け舟を出しました。
大きなビンを三本。マジックポケットから取り出します。
透明なビンに詰まっている黒い泥は、ここでも異彩を放っています。
お父様とフィリップは嬉々としています。
「ブラウン、厨房長にバターを頼んであるわ。マジックポケットで持っていく分を取ってきてくれる? ブラウンがよければ、ベリーパイをここで作ってもいいし。そうしたら……、みんなでお茶ができるわ」
私はブラウンの顔色をうかがいます。
「そうですね。では……、フィリップ様の指導はこれくらいにしておきましょう」
ブラウンは失笑しながら答えます。
「アリス様もフィリップ様も仲がよろしくて……ほほほほ」
ブラウンは楽しそうへ厨房へ向かいます。バレバレでしたね。
「この原油なんですが……、ここの草原で見つけたんです。この辺りに黒い沼が点在しています。もしかしたら……ですが、地下で原油の溜まりがつながっている可能性もあります。これが原因で、この草原には街道が整備されなかったんです」
「なるほど。これは、いいものを見つけたね」
お父様は顎をさすりながら、地図を見ています。
「でも、道をどうするかっていうことなんですが……」
原油のでる沼をまとめてしまうか。それとも橋をかけるか。ここの地域を避けて通るか。
原油があることから橋をかけても、すぐに傷みそうな気がします。これから人や荷物が行き来するから、橋はあまりよろしくないかも……。
かといって、避けて通るのも、面倒だし。
「やっぱり原油のもとを特定し、点在している原油の沼をまとめてしまうというのが一番かなと考えています」
「ああ、そうだね。原油の沼か……」
「精製すれば燃える水だね……、ワクワクするなあ」
フィリップは大事そうに1ビン抱えています。もう実験する気満々ですね。
屋敷の奥からバターの匂いがします。それからベリーの甘酸っぱい匂いも……。
やったあ! ベリーパイです。
ベリーパイが運ばれてくるまで、頑張ってお父様と作戦を立てちゃいましょう!
「アリス、この草原の向こう側がなんと呼ばれているか、知っているかい?」
お父様が地図を指さしています。
「白い土でしたっけ?」
私はお父様の反応を見ます。
「そう、白い土だ。別名、死の大地とも呼ばれている……」
「え?」
がーん、そんな土地なんですか。草原の向こうまで統治すればかなり領地が拡大すると思っていたのに……。ぶっそうな名前がついてますね。
「知らなかったのか。まあ、あの辺の情報は出ていないから、アリスが知らなくても無理はないが……」
お父様は腕を組みました。
「全く知りませんでした。うわぁ、死の大地って……、もう足で土を踏んだら爆死しちゃうとか、そのレベルなんでしょうか」
どうしましょう。すっごい魔法の使い手が仕掛けた罠があちらこちらにあるとか? 怖いんですけど……。死の土地……、なんとかならないものなんでしょうか。
「行って見たことがないから確実ではないが、爆死はしないだろう、たぶん。作物が育たない、草も生えない、水も飲めないという意味だと思う……ぞ?」
お父様は完全に面白がっているみたい。
「お父様……」
私はムッとしてお父様を責めた。
「……、あれはおそらく塩だと思うのだ」
お父様は笑いをかみ殺しています。
「はあ? 塩ですか?」
腹が立つのでお父様の態度は見なかったことにします。さっさと話を進めちゃいましょう。
「ああ。あくまで推測だがね、地下にある大昔の海水がたまっていて、それが土から滲み出ているんじゃないかと思うんだ」
お父様は私の頭をポンポンとして、「さて、アリスならどうする?」と優しい瞳で見つめました。
「ということは……、塩害ということですか」
「おそらくな」
お父様はにこりとしました。
塩害ですか……。塩土……ですよね。やっかいです。あそこで農業をするには、土壌を変えて、作物を植えるしかありません。そんなに土の入れ替えができるでしょうか。地下の海水と追いかけっこになりそうです。
土壌を変えるには、根本を改革するしかありません。地下水が海水の溜まったものなら、その地下水の水質を変えないといけないでしょう。なんとかならないかな。土の塩を取ればいいんですけど……。ほかに方法があるかな。
うーん、塩を取る。塩! そうです。塩をとればいいんです。
「お父様! 塩を採ればいいんです!」
「よくできました。黒い沼の草原も領地として治めるなら、死の大地も治めればいい」
お父様は微笑みました。
褒められた! いくつになっても褒められるのはうれしいんですよ。
私も思わず頬が緩みます。
あそこは、海からも離れてますし、自分たちの分だけでも塩が採れればそれだけで助かります。
山塩は海の塩と味が違うといいますしね。うまくいけば、特産品まで育てることができるかもしれません。
これは力がはいります! 待っててね、白い土!!
廊下からカチャカチャとお茶の支度の音が聞こえます。ふんわり漂う甘酸っぱいベリーの匂いとバターの匂いが近づいてます。私の口まであと数分のことでしょう。
まずは英気を養うことにしましょう。
ベリーパイさま、カモーン!
次の日、お父様たちに別れを告げ、空間切り裂き魔法で草原の端までやってきました。王子も私たちを見つけ、手を振っています。
「ついに来たわ! 白い土よ。死の土地よ」
周りを見回して、びっくりしました。お父さまの言う通り、足元の土はうっすらと白いのです。
ちょっと指で土をつけてなめてみました。ブラウンは信じられないという目で睨んできましたが、そこは見なかったことにします。
「うう、しょっぱ! でも、なんか美味しい感じ」
「ええ? ほんとですか?」
ブラウンも好奇心に負けてか、指に塩をつけて味見してみます。
「しょっぱいけど、たしかにちょっと甘みがありますね。海の塩とは味わいが異なります。いいお塩ですね」
「そうだよね。これって、すごいよ。だって……、見渡す限り、白い塩なんだよ」
たしかに草木も生えない、乾いた大地です。地面は白い塩に覆われています。でも、考えようによっては、財産です。ワクワクしてきます。
ここで塩を作れば……。この領地経営の主幹産業にもなります。
どれどれ。
マジックポケットからツルハシとシャベルを取り出してみましたよ。
王子がツルハシで、私がシャベルで地面に穴を掘っていきます。
土を少し掘るだけで、じわじわと水分が集まってきました。手を入れてみると、ほんのり温かな水です。
もしや、これって……、温泉!?
指で上澄みの、綺麗な水だけつけて、ペロッと舐めてみます。
ふふふ、やっぱり、しょっぱい。
お父様の言う通り、ここは太古の海水が地下にたまっているに違いありません。しかも温かいってことは、温泉地にもなりますよ。温泉観光施設を展開させるって言うのもなかなか面白いじゃありませんか。
白い大地を探索していくと、私の大きさほどの白い岩のような塊がありました。巨大な塩なのかも。ラッキーが半分、好奇心が半分で、塊をポンポンと叩いてみたら、岩がパカンと割れて塩泉が湧き出しました。
うわぁ、やっちゃった!? そんなに強く叩いてないですよ。え! なんで?
ブラウンと王子が目を丸くして、口を開けてます。
なんか喋ってくださいよ……。ええええ、その態度、寂しいです。
「すごい力……、まるで怪力みたい」
ブラウンが小さくつぶやきました。
ちょっとちょっと……、怪力とか言わないでください。私、本当は非力なんです。ブラウンのほうが力は強いんですよ。信じて~。
この白い大地はどこまで続いているのでしょう?
私たちは境界を確認するためにエルメシュ山脈のほうへ歩いていきます。
白い土地はだんだん薄くなって、塩が少なくなり、普通の茶色の土になっていきます。ぽつりぽつりと草が生え始め、とうとう山のふもとまでたどり着きました。
ここはエルメシュ山脈のふもとですね。青々と草木が茂った山並みが近く見えます。
「とりあえず、この辺りまでにしておきますか?」
ブラウンと王子に同意を求めると、2人は大きく頷きました。
実は、新領地の手続きのため、境界をどこにするか、歩いていたのです。
「では、ここまでをアリス・ラッセルが領地とすることを宣言します」
せっかく資源を見つけたのに、他の人にとられては大変です。先手必勝。
私が述べると、賛成とばかりに白い大地から小さな旋風が起こりました。見えざる土地のものやこの土地の先祖たちも反対しないってことね。よかった……。これで新領地の手続きが完了です。
さて、次は原油と塩の精製施設と温泉施設の準備もしないと……。ならば、最初に拠点になる、私の屋敷も作っておいた方がいいかもしれませんね。すでに壁はできてるからね。
しかし、やることが多すぎてめまいがしそうです。
でも、でも……、今すぐに建てたい。完成させたい。ああ、どうしたらいいのでしょう……。
はっ。
そういえば、私、レンガを作れるかもしれません。焼き物ができるんですから、レンガも作れるはずです。
「ねえ、ブラウン、ちょっとだけここに滞在してもいい?」
「はあ、いいですけど」
ブラウンは土を掘り始め、塩水を汲み始めました。
「ここのあたりに、3棟ほど建物と私の屋敷を建ててくるね」
「……」
ブラウンは黙って私をみつめ、ため息をつきました。
「いいですか、危ないことはしないでくださいよ」
「はい」
「なら、自由にしていいですよ。ここはお嬢さまの領地になさるんでしょ? 善は急げです」
ブラウンは苦笑しています。
ブラウンからお許しも出たところで、さあ、やりますか!
「究極魔法・土、レンガ成型、窯成型」
私は大きく手をふるいます。ちょっと遠くから土を運んでくるため、動作も大きくなります。
この辺の土は塩が混じっているので、シタラとマイヤのところで出た泥や粘土を使うことにしたのです。
この土たちはどんどんレンガの形に並んでいきます。
「究極魔法・風、一気に乾燥」
レンガの水を抜いて、窯で焼きます。究極魔法・火で細く長時間焼きます。
大型建物3棟分と私の屋敷の分ですからね、いったい何個レンガがいるんでしょうか。死にそうです……が、頼れるのは己のみ。
超スピードで仕上げていきます。
どうでしょう……。レンガはもういけるかな。
がんがん積み上げていきます。
あとは内装の木材ですね。木を切ってこないと。インテリアはゆっくり考えればいいでしょうか。
できたら水道もひきたい……。温泉もひきたい……。欲望と野望が入り交じり、忙しすぎて笑うしかありません。
3日後。
終わりました。できました。
カッコいいでしょ? レンガ造りの建物ですよ。温泉施設と、原油や塩精製設備があればこの領地経営もうまく行くと思います。
ほっとしたら眠くて死にそうになりました。魔力が半分ほど減りましたよ。ちょっとふらふらするんで、ご飯を食べて、少し寝せてもらいますね。
ブラウンのパンとスープ、おいしい……。
目が……、瞼が……、開けていられません。どこか遠くから幻聴が聞こえます。
「アリス、アリス?」
王子が甘く優しく呼んでいます。
瞼をこすりながら目を開けると、王子の顔がありました。ヤバいです。幻聴の他に幻視です。体力の限界が来ています。
「大丈夫? 食べながら寝ちゃ……、危険だよ」
王子はぐにゃぐにゃの私を支えてくれました。
あったかい……。
思わず王子をぎゅーと抱きしめてしまいました。
「アリス……」
王子の顔が近づいてきます。
すいません。もう無理です。おやすみなさい。
ばたんと後ろに倒れそうになった私を王子が支えてくれました。
ありがとう……。王子……。
幸せな夢から覚めると、ブラウンとマカミ、それと王子が私の様子を伺っていました。
あまりにも爆睡していたので、心配していたとのことです。すいません、すいません。
「あの、ご飯の時にいたのは……」
「王子です」
ブラウンはベッドメイキングを始めました。私はさっさとベッドから出るよう促されます。
「ベッドに連れて来てくれたのは……」
「ふふふ。王子ですよ」
ブラウンは瞳をキランとさせ、口角を上げました。
「……」
不覚です。ほんとうに油断していました。
「王子に横抱きに抱かれて、ほんと、素敵な光景でしたよ。お嬢さまが寝こけてなければもっと素晴らしかったですけど」
顔から火が拭くほど恥ずかしくて、身体中の血が沸騰しそうです。
ショック……。いわゆるお姫様抱っこじゃないですか。幻聴、幻視じゃなかった……。
「よだれも拭いてあげるし、いつでもアリスのことをベッドに運んであげるよ」
嫌がらせでしょうか……。王子は底意地の悪い笑いをしています。
ひーん。夢の中に王子がいると思って、思わず抱きしめちゃったことも……、現実ですよね。
ああ、消えてなくなりたい。
死の大地の風が私を慰めるように流れて行きました。
見渡す限り、ラッセル領です。私の新領地になります。
「広い……」
「広いですねえ。がんばって、お嬢さま」
ブラウンは他人ごとのように話します。
「ううう」
「お嬢さまなら管理もできます! 建物もたてたし」
ブラウンが励ましてくれました。
「ただ……、このままリマーに行くとなると留守が心配だよね」
王子も腕組みをしています。
「では……私の人形を置いて、先に進むことにしましょう。何かあれば人形を通して、シタラとマイヤに連絡ができますし」
私はささっと私そっくりの土人形を作って見せました。
王子は面白そうに人形の頬をなでています。
黒い沼の草原に死の大地は嫌われている土地だとはいえ、この土地の価値に気がついて、誰かに領地開拓の印を上書きされてしまうとやっかいですからね。
「もう少し、アリスに似ていたほうが僕は好きかな。あと、この広い敷地、アリスの複製人形1体で足りるのかな……」
王子は心配そうです。
大丈夫です。複製アリスは強いですから。さて、新領地の見張りもできたし、出かけましょう。
複製アリスに浮遊魔法をかけ、死の大地、塩精製所、温泉施設、原油の沼、草原、シタラとマイヤの集落までを見回るようにしておきます。魔力も強く込めておいたのでなんとかなるでしょう。
「なんか……」
動き始めた複製アリスを見て、ブラウンは目を細めてため息をつきました。
「呪いの人形感が漂ってますね……」
王子がブっと吹き出します。
ひ、ひどいです……。
「たしかに……、夜、月明かりに光る白磁のアリス……。これは亡霊さながらですね」
王子は大笑いしています。
「ふわりふわり足をつけず、空を舞う人形ですからねえ……」
ブラウンも追撃してきました。
「ええ! だって、布の人形にする時間もなかった……よね? 仕方がないんですう」
私の言い訳が死の大地に炸裂しました。
さあ、リマーに向けて出発です。
リマーまで順調に道を作ることができました。
死の大地を抜けたので、けっこうあっさり着いちゃいましたよ。
死の大地、人気ないのね。まあ、そうよね、死の大地だもの。
気がかりなのは、赤マントの男たち。チラチラとたまに後ろにいるのよ。やだなぁ。
リマーで観光でもと思ったけれど……
。赤マントもいるし、嫌な予感がするので、急いでシタラとマイヤのところまで戻ることにしました。
まだ、新領地の管理もできていないしね。
王子とデートもしたかった……なんてことは思ってないですよ。思ってないですってば。
ブラウンがニヤニヤしています。
さあ、リマーから空間切り裂き魔法で新領地へ移動してしまいましょう。
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