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3 農商工会議所のお客様
「なぜラッセル領が王都の食糧不足の皺寄せをうけるんですか」
商工会議所代表のウルマは、お酒を飲みながら、お父様のほうを向いて語気を強めます。
修行が終わって、家に戻ったら、お客様がいらしていました。今日の夕食はお客様といっしょみたい。
ちょっと面倒ですけど、仕方ありません。おとなしく、いい子にしていましょう。
「農業部としても商工会議所のウルマの意見と同じです」
農業部のサカゴクも顔を赤くして、お父さまに訴えている。
王都で食料不足なの?
ここ数年は豊作だよ。おかしいなあ。
増税のことも、ウルマとサカゴクも話しているみたい。
何が王都で起きてるのかしら。
流行り病が出たとか、飢饉が起きたとか、聞いてないんだけど。もしかして私が知らない何かがあるの?
「教会と王家が仲が悪いとはいえ、なぜラッセル領が……」
ウルマはサカゴクに同意を求めます。
「ほんとですよ、なぜ王の離婚問題がラッセル領に関係するんですか」
サカゴクもうなずいた。
「仕方がない。影響が最小限になるよう何か策を講じなければいけないね」
お父さまは渋い顔をしています。
「ほんと、バカらしい。愛人と結婚したいから教会と揉めるとか、あり得ない」
ウルマが小さい声でつぶやきます。
えー、王さま、愛人ができたってこと?
ハトラウス王国は、一夫一妻制で、離婚も重婚も認められていないの。どうするのかしら?
そういえば、帰りに寄った八百屋で
「お嬢様もそのうち結婚だろう? 旦那の面倒はしっかりみてあげないと」
八百屋のおばちゃんに笑われたことを思い出しました。
残念。今日、婚約破棄されたけどね。さすがに今日のことだから、ネタにはできなかったけど。今度、八百屋のおばちゃんに会ったら、しばらく結婚しないって言っておこう。
おばちゃんに町の人に言っておいてもらおう。自分で言うのいやだもの。
しかし、王様は愛人問題をどうするのかしら。気になるわ。
ぼーっとしていたら、フィリップに呆れられました。
フィリップは貿易と魔法薬に興味があるみたい。すでに4か国語くらいしゃべれるの。10歳なのにねえ。大したものね。
いったい議会も教会も何を考えているのかしら。
というか、王様や王子は何やってるのかしら。ぼんやりしてるんじゃないの?
婚約破棄はさておき、いつか施策について話し合いたいものだわ。うちの領民を苦しめようなんて、ただじゃすまないわよ。
「お姉さま、うちは教会と王に税金と商品を納めていますよね」
フィリップがこそっと聞いてきた。
「ちゃんと教会税と領地税を払って、商品の売買をしてるわ」
「それなのに、どうしてうちの領地に教会と王が無茶振りしてきたんですか。それって愛人問題とのどう関係するの?」
不思議そうにフィリップは私を見つめています。
「教会の力が強ければ、みんな教会を応援して、なんとかしてもらおうって思うでしょ。反対に王が強ければ、王になんとかしてもらいたいでしょ。つまり教会と王はライバルなのよ」
「なるほど。じゃ取り巻きの数の話なんですね」
「取り巻き……。そういう感じかな。取り巻きの数がお金の量になり、権力の強さになるからね。だから、取り巻きを逃さないシステムというのも教会と王が作っているのよ」
「なんか、大人ってすごいんだね」
フィリップは目をキラキラさせています。こんなお金の絡む権力話を楽しそうに聞けるなんて。やっぱりこの子しか次世代領主はいないわ。
うんうん。頑張れ、フィリップ。お姉ちゃんは応援する。
「まずね、教会は教会税を払えっていうでしょ。教会税をいつも確保したいから、領民は許可なく領土から出ちゃいけないって規則があるの。つまり、引越し禁止ね。それから、風紀が乱れると教会のせいにされるから、重婚も禁じていて、離婚も禁止」
「なるほど。理由があるんですねえ」
フィリップがぐいぐい食いついてきた。
「王さまも同じね。税金を取って、税金の確保のために引越し禁止。それは工業や農業の技術の流出にもつながるからね」
「ふむふむ」
興味深そうに聞いているフィリップは、もしかして腹黒? こういう世界をすいすい泳げちゃうタイプ?
「でも、王さまはお后様とは別の女の人を好きになっちゃったから、どうしても離婚して、愛人と結婚したいって、教会と対立しているんだって。うちのお父さまを見習ってほしいわ。お母さま一筋だもの」
私とフィリップはお父さまに熱い視線を送る。お父さまは突然の子どもたちからの注目に戸惑っています。お父様、なんでもないですよ、気にしないで。
「いろいろ大人って、あるんだね」
フィリップがふーんと頷く。
「もともと領民からのお金と権力の奪い合いしてるから王家と教会は仲が悪かったけど、愛人問題で正面衝突ということだわね」
「うちはお父さまとお母さまの仲がよくてよかったね」
フィリップは微笑みます。
「それが、どうお姉さまの婚約破棄につながるんでしょうね」
フィリップがぼそっとつぶやきました。
フィリップ賢すぎ! でもそこの情報はないからね。わからないよ。本当に王子に好きな人ができたのかもしれないし。
ああ、だんだんムカついてきた。
とにかく、私は、わたしの家族とうちの領民が平和で幸せに暮らしてもらえればいいのよ。王さまも教会も、婚約破棄の王子も勝手にやってちょうだい。
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