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5 開拓案を出してみた
「ところでお父様……。王都はいかがでしたか?」
なんだかお父様は大変だったみたいね。お疲れになってそうよ。
お父様はしんどそうに首を横に振った。
お母様もフィリップもお父様の顔を心配そうにじっと見た。
「王都は相変わらずだな。増税、増税と教会も王もうるさいよ。根本的に解決できる道を探るしかないが……、難しいな」
お父様は口角を下げて渋い顔をした。
「お父様、それならば領地の開拓はいかがですか? 森を切り開いて、新しい街をつくったら……」
とりあえず、思いついたことを話してみました。
教会も王も「土地を開拓したら、その土地は開拓した人のもの」と認めているの。だから開拓したら領地を拡大できるのよ。でもね……、開拓って普通に考えたら大変。
「たしかに、それも考えたが……。町の人間を集めて開拓するには時間がかかり過ぎる。開拓は数年がかりになるだろう。増税に対応するには、時間が足りないんだ。領土が拡大したら、また税を課せられる可能性もあるしなあ」
「お父さまが指揮をとるのは難しいかもしれません。でも私が開拓の指揮をとれば……と思っているのですが」
「おまえが? アリスが?」
お父さまは驚いています。お母さまは大きなため息をつきました。
「アリスなら、やはり言い出すと思ってましたよ。フィリップに公爵をって思っているのでしょう? 」
お母さまの言葉に私はうつむきます。
「気を使わなくてもいいのよ。アリスはいつまでもうちにいていいのだから。何だったら私が開拓の指揮をとっても……」
お母様が胸を張る。
「お母様……」
ううう。涙が目に浮かんじゃうわ。
お母様はこの屋敷と、お父様が留守の時、領土を守らなくてはいけないでしょ。フィリップだってまだ幼いし。
「お母様は、お父様を支えてください。それはお母様しかできないお仕事ですから。私には究極魔法もあるし、マカミも、ブラウンもいます。大丈夫です。任せてくれませんか」
もっと早く開拓しようって腹をくくれば、こっちから婚約破棄することもできたかもしれないわよね。
正直に言えば、婚約破棄されてむかむかはしているのよ。別に王子に未練があるわけじゃないけど。理由もわからず破棄されたことに腹を立ててるの。
説明責任はあると思うのよ。あのクソ王子!
失礼。思わず脳内から漏れちゃったわ。
「アリス、気を使うことはないのだよ。お前は私の可愛い娘なんだから」
「そうだよ、お姉様はずっと家にいればいいんだよ」
お父様は必死で止めようとし、フィリップは私に抱き着いてきました。
「ありがとう。婚約破棄されたし、これからの人生、どうやって過ごしていこうかって考えていたの。だから、開拓は私が適任だと思います」
「アリス……」
お父様とお母様が涙声になっている。
「婚約破棄した王子が悪いんだ。お姉様をいじめて……」
フィリップが悪人面になっています。
だめ、そんな顔しちゃ。フィリップは天使の顔でいてよ。歪んだ顔もなかなかさまになっているけどさ。
私はお父様を見つめました。
「ああ、そうだな。開拓か……。いずれはと思っていたが。何もいま、年ごろの娘が開拓の指揮をとらなくてもいいだろう」
お父様は眉をハの字に下げます。
「アリス、若いころは、おしゃれしたり、恋をしたり……、おしゃれしたり、恋をしたりっていろいろあるわよ。デートもできるし」
真顔のお母様、同じこと二回も言ってますよ。
結婚も恋愛も、私にはもう難しいでしょう? わかってます。多分、この国の男の人は寄ってこないわ。他所の国の人だってそうよ。だって、王子の元婚約者だもの。
私が静かに首を横に振ると、お父様もお母様も大きなため息をつきます。
「開拓しても黒い森あたりなら……、思念波を飛ばすのもできるし、いざとなったら空間魔法でちゃっちゃと帰ってきますから。これからも精進して、限界を突破する予定ですし」
「限界突破はおいておくとして。……無事帰ってきてね。約束よ?」
お母さま……。泣かないで。
お父さまも涙ぐんでハンカチを取り出します。
「……うう。お姉さま」
フィリップは私を力いっぱい抱きしめました。
ふふふ、まだまだ子どもね。可愛いわ。この可愛いフィリップのぎゅーの図、覚えておかないと。
いつまで湿っぽくても仕方がないわ。さて、準備に取り掛かりますか!
マカミはすべて聞いていたようで「ワンッ」と返事をしました。
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