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「痛っ」  と小さな声を上げた妹の方に、姉は思わず目をやった。  カッターナイフを持った妹が、少しだが指を切ったようだった。  妹は手先が不器用なのだ。姉は妹の机のそばに行き、その手元を見た。 「何作ってるの」 「本の帯! あまぶんに送るの」 「あまぶん?」  けがをしたばかりだというのに、妹の顔は明るい。傍らに置いたスマートフォンを手に取り、『尼崎文学だらけ』と書かれたページを見せた。 「今度このイベントに出るんだよ」 「へえ……」  姉はそのページをちらりと見て、それから妹の手元にある紙とカッターナイフを引き寄せた。 「こうやるんだよ」  姉はそう言って、自分で紙を切って見せた。まっすぐで、少しのゆがみもない帯が切り出されている。 「お姉ちゃん、すごいね」 「昔は私もやってたからね」 「今はもうやらないの?」  妹の言葉に、姉はしばらく黙っていた。そして、何も言わずにその場を立ち去ってしまう。 「お姉ちゃん、怒ったのかな……」  妹は落ち込んでいたが、姉の本心は違った。  姉は自分のスマホを取り出すと、すぐに『尼崎文学だらけ』を検索した。「妹に便乗してみるっていうのもいいかな」とつぶやいて。
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