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「そういえばさ、先月俺の住んでる近くにイタリアンレストランが出来たんだよね。結構美味しいらしくてさ」
来月誕生日だろう? だから、もしよかったら、一緒に行きませんか。
心臓が、どくんと跳ねたのが分かった。間髪を容れず行く! と答えると、笑いながら「デザートの種類も多いらしいぞ。甘いもの好きだったよな?」と返ってきた。それも覚えていてくれたんだ。
詳しいことはまた後で相談しよう。
うん、ありがとう。予定が分かったらすぐ連絡するね。
じゃあ、またね。
うん、また後で。
通話終了のアイコンを軽く押し、大きく息を吐く。その勢いで布団から抜け出し、オレンジ色のカーテンを思い切り開けた。いつの間にか雷も雨もどこかへ過ぎ去っていたらしい。先程は何だったのだと思うくらいに、外は穏やかで静かだった。
段々と分厚い雲が消え去り、澄み切った空が茜色へと染まっていく。まるで何事も無かったかのように。予想外の雷も大雨も苦手だけれど、その後に広がる空は結構好きだ。
これなら、今晩レストランに行けるはず。そう思いながら窓の外を見ると、母の車が見えた。職場から帰ってきたみたいだ。もうそんな時間になるのか。そもそも、今は何時なのだろう。
スマートフォンで時刻を確認していると、メッセージの受信を告げる音が鳴った。今度こそ父からだ。止まっていた電車が動き始めたらしい。「もうすぐ帰ります」。にっこりマークの絵文字付きだ。
あいつと行くのは二回目になるけど、きっと今日と同じくらい美味しいに違いない。今日のデザートはジェラートにしよう。期間限定メロン味。ティラミスは来月に行くときのお楽しみだ。
今日の天気は、私に恐怖以外の何かをもたらしてくれたらしい。
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