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虚無の瞳。その虚無が、瞳に映し出された人物の虚無さえも引き出してしまう、見せてしまうような瞳。まさにハリーポッターの「みぞの鏡」だ。
家の近くまで来ると、途端に何か安心感が芽生え、動悸が収まる。それでもせっかくコンビニで買ってきた夜食を食べる気にもなれず、冷蔵庫にしまった。
辰巳が彼女と会ったのは、その翌週である。同じようにコンビニに夜食を買いに行き、そしてすぐに彼女のことが頭に浮かんだ。たった一瞬、彼女と目を合わせただけなのに、彼女の顔がくっきりと浮かぶ。そして同時に虚無の瞳を思い出して、息が苦しくなった。
遠回りは止めよう。遠回りをするとしても、駅前は通らないようにしよう。そう考えながら、家へと道を歩き始めた。
気づけば、駅前にいた。
先週よりかは人出はあるが、それでもまだ少ない方だった。その中に一人、静かにマッチの灯を眺める彼女の姿に吸い込まれた。今日も一人、虚しそうにマッチを吸っては縋るように灯を眺めている。
それから何度も何度も、彼女の元へと足が動いていた。真夜中のコンビニの次の行先は家ではなく、駅前。そして彼女を見る。彼女が恐怖の対象なのは分かっていた。会いたくない、と本能的に考えているのも分かった。彼女は辰巳にとって、危険な存在であると思ったからだ。それでも足は動く。体も動く。そしていつの間にか彼女の近くにいる。
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