12.兆し

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. 「彼女を失って以来、俺は誰かと寄り添いながら生きていく幸せは諦めていた。 他の誰かと生きていく未来を想像できなかったんだ」 それで良いと思っていた。 だから、茜から別れを告げられても、それを受け容れずに彼女の闘病を支える決意をした。 限りある幸せだと分かっていても、彼女と生きていたかった。 悲しい過去、そして彼女を失った痛みを、死ぬまでずっと背負っていく覚悟だった。 凛子との出逢いが、全てを諦めていた俺を変えてくれるまでは。 「そんな中で凛子に出会い、彼女に惹かれて何かが変わり始めた。 くだらない男に裏切られ傷ついた彼女を、自分の手で幸せにしてやりたいと思うようになった。」 上司としてではなく1人の男として、側にいたいと切望した。 そうなるまでに、2年近くという長い時間を費やしたけれど、だからこそ簡単にこの想いが消えてしまうことはない。 「今も、彼女と共に幸せを歩みたいと願っている。そのために、まずは目の前の問題を解決していかなければならない。 それを乗り越えたら、必ず彼女を迎えに行くと約束するから、安心して俺に凛子を任せて欲しい」 初めて晒した胸の内に、彼はただ静かに頷いてくれる。 留以と副島の件に方がついたら、俺は真っ先に凛子にこの想いを伝えるつもりだ。 明後日には留以が復帰する予定だ。 なるべく早いうちに決着をつけようと思う。 .
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