12.兆し

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*** 体調不良で倒れたその日は、午後から半休扱いにしてもらった。 その後も立ち眩みが続いたので、眩暈が無くなるまで医務室で休んでいたら、結局は夕方近くまで会社にいてしまった。 医務さんに御礼を告げて、2階に荷物を取りに戻ったときには、すでに副島さんの姿しかなかった。 真剣な面持ちでパソコンを眺めていて、私が戻って来たことに気づかない彼に、遠慮がちに声を掛けてみる。 「お疲れ様です……」 すると、彼がその手を止めて顔を上げてくれる。 途端にその表情は、私が普段よく目にする明るいものへと変わった。 「あ、おかえり。具合、少しはマシになった?」 「……はい。それで、業務の方はどうなりましたか……?」 それだけが、医務室にいる間も気になっていた。 しかし、彼は明るい表情を崩さないまま、答えてくれる。 「今日が納期のものは、永田さんが仕上げて提出しておいてくれたよ。今、他のスケジュールを見直しているところ」 「お手数をお掛けして、申し訳ないです」 「いいって。スケジュール調整も、俺の仕事なんだから。あ、新しいケースに入れた社員証、レターケースの中に入れてあるから」 そう言って、そこだよと言わんばかりに、私のデスクにあるレターケースへ目線を向けてくれる。 そうだ、社員証のことなんて、すっかり忘れていた……。 .
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