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「ありがとうございます」
傷一つない新品の名札ケースに入っている社員証を大切に鞄に入れて、そしてデスクの上を片付ける。
そんな私に向かって、副島さんは手を止めたまま話しかけてくる。
「あと、芹澤のことだけど……」
不意に告げられた柊平さんの名前に、思わず手を止めた。
何を言われるのだろうと、内心ビクビクしながらも顔を上げると、副島さんは優しい口調でたしなめるように告げてくる。
「無理に割り切ろうとしなくても、いいんじゃないのかな」
「え……?」
「別れたからと言って、好きだという気持ちを抑える必要はないんだよ」
「……」
彼は口にしなかったけれど、自分もそうだからと言いたかったのかもしれない。
本人は気づいていないと思うけれど、私にはその力ない微笑みが、悲しみを纏っているように見えた。
今のこの気持ちを最も理解してくれるのは、この人なのかもしれない。
だから、こんなにも心配して、気を遣ってくれるのかな……。
「さ、今日はもう帰宅しな。明日も本調子に戻らなければ有休を取ればいいから」
「はい……。ありがとうございます」
柊平さんとのことは個人的な事情で、世間話のように誰にでも気軽に話せることではないから、今はその優しさが本当に有り難かった。
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