12.兆し

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. 「櫻井さんが無理をしないといけない状況を作ったのは、私たちの落ち度です」 「え……?」 「だから、頭を下げないといけないのは、やはり私たちの方です」 毅然とした態度でそう言うと、背筋を伸ばして腰から頭にかけて一直線に腰を曲げて、頭を下げる。 まるで、研修のときに練習させられた、最敬礼の見本のようだ。 「申し訳ありませんでした」 そう述べると上体を起こして、私を真っ直ぐに見つめながら早口で淡々と話を続ける。 「2か月間近くで見てきて、確かにあなたはとても仕事のできる人だと思いました。 でも、一人ですべてを担う必要はないんです。私たちは一つのチームなのですから」 中谷さんから、労いの言葉をかけてもらうのは、これが初めてだった。 初対面には冷たい人だと、皆が口を揃えて言っていたから、いつかは認めてもらうことを一つの目標にはしていたけれど、こんなに早く叶うなんて……。 「おっ、良いこと言うね!中谷さん!」 「当然のことを言ったまでです」 小林さんが軽く茶化したところで、愛想笑いを浮かべることもなく、無表情でしれっと言い返す。 でも、それが彼女の平常運転だということを彼は理解しているから、特に気にも留めていない様子だ。 すると、今度は永田さんが、私たちに明るく話しかけてくる。 .
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