12.兆し

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*** それから数日が経って、体調は徐々に回復してきた。 仕事も無理なく順調にこなせている。 今までの波乱が嘘だったかのように、穏やかな時間が過ぎているように感じるのは、私の中にあった柊平さんへの想いが薄れてきたからだと思っていた。 でも、そうじゃない。 昨日久しぶりに、社内で糸原さんの姿を遠目で見かけた。 彼女の側に柊平さんがいなくてホッとした私は、まだ彼への想いを全く吹っ切れていない。 もしかしたら、ずっとこのまま永遠に想いは報われることのないまま、終わってしまうのかもしれない。 そんなことを考えては、もう二度と触れられないかもしれない彼のことを、どうして手放してしまったのだろうと深く後悔をした。 「櫻井さん、どうかしましたか?」 「あ、いえ。少し目が疲れてしまったみたいで」 そう言いながら、涙で熱くなりかけた目頭を指先でぐっと抓む。 微かに赤くなった目は、涙ではなくて疲れによるものだとアピールするように。 すると、中谷さんはそれ以上は何も言わずに、そのまま視線を手元へと戻した。 「そう言えば、朝から関川部長と副島室長の姿がありませんね」 「あ、そうですね……。上に呼ばれたみたいですけど」 私の問いかけに、中谷さんは作業をしながら返事をしてくれる。 ちなみに今、永田さんと小林さんは、午後から社外で行われる研修の準備を手伝いにいっていて、この場は私と中谷さんの二人きりだ。 けれども、以前のような重苦しい雰囲気はない。 .
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