12.兆し

27/53
16975人が本棚に入れています
本棚に追加
/562ページ
. 「何か、心当たりはないかな?」 「はい……。心当たりはないです」 「じゃあ、どうして君のIDが使用されているんだ?」 「それは……私にも、分かりません」 事態を把握しようとする反面、突然の出来事に呆然とする私に、楢崎常務が威圧的に尋ねてくるので委縮してしまう。 それが常務にとっては疑いを向ける要因となったのか、更に追い詰めるような言葉を投げかけてくる。 「話によると開示された情報は全て、櫻井さんが営業部の頃に担当していたクライアントばかりだ」 「……」 「データ保管をしているファイルにも詳しいはずだが、どうかな?」 「それは、仰る通りですけれど……」 「君は真面目で優秀な社員だと聞いていたが、まさかこんなことになるとは……」 「私じゃありません!!」 こんなのまるで、誘導尋問だ。 身に覚えのないことに対して責められ、流石に感情的になった私を庇ってくれる人はいない。 常務に目を付けられたら面倒だということを、この場にいる誰もが理解しているから、なるべく気に障らない言葉を探っているのだと思う。 自分の立場など省みない、たった一人を除いては……。 「楢崎常務、お言葉ですが……人事部のパソコンからは営業部のデータにアクセスできません」 毅然とそう言葉を放ったのは……他でもない、柊平さんだった。 .
/562ページ

最初のコメントを投稿しよう!