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「何か、心当たりはないかな?」
「はい……。心当たりはないです」
「じゃあ、どうして君のIDが使用されているんだ?」
「それは……私にも、分かりません」
事態を把握しようとする反面、突然の出来事に呆然とする私に、楢崎常務が威圧的に尋ねてくるので委縮してしまう。
それが常務にとっては疑いを向ける要因となったのか、更に追い詰めるような言葉を投げかけてくる。
「話によると開示された情報は全て、櫻井さんが営業部の頃に担当していたクライアントばかりだ」
「……」
「データ保管をしているファイルにも詳しいはずだが、どうかな?」
「それは、仰る通りですけれど……」
「君は真面目で優秀な社員だと聞いていたが、まさかこんなことになるとは……」
「私じゃありません!!」
こんなのまるで、誘導尋問だ。
身に覚えのないことに対して責められ、流石に感情的になった私を庇ってくれる人はいない。
常務に目を付けられたら面倒だということを、この場にいる誰もが理解しているから、なるべく気に障らない言葉を探っているのだと思う。
自分の立場など省みない、たった一人を除いては……。
「楢崎常務、お言葉ですが……人事部のパソコンからは営業部のデータにアクセスできません」
毅然とそう言葉を放ったのは……他でもない、柊平さんだった。
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