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敢えて誇張するように返事する。
その言葉に嘘はないけれど、彼の幸せそうな顔を見ると、無意識のうちに唇を噛みしめている。
「じゃあ、そのブレスレットをしていることに意味はないと?」
「物に罪はないでしょ。それにブルガリだし……」
私が手首に巻いているブルガリのブレスレットは、以前に彼が買ってくれたものだ。
多分、付き合い始めて1年の記念日だったと思う。
私がまだ、彼に愛されていたころの話。
「私だったら、浮気された時点で手切れ金代わりに即換金だけど」
「……だって、気に入っているから。それに自分じゃ高くて買えないし」
今日という吉日に、敢えてこれを付けてきたのは、当てつけでもなければ未練なんかでもない。
手放すには惜しい、ブランドの価値の問題だ。
この心に、あの人への想いは残っていない。
裏切られていることを知り、彼女が妊娠していると聞かされた時、私は彼と過ごした4年間を否定されたようで傷ついた。
積み重ねたものが、呆気なく崩れ去っていく瞬間を、目の当たりにした。
「凛子、合コン開いてあげようか?」
「……遠慮しておく」
実際に、今までに何度か、亜沙美は私のために合コンを開いてくれたけれど、よく知らない相手と無理に会話を弾ませながら、楽しい振りをして食事をすることが苦痛でしかなかった。
私には、あの手の出会いの場は向いていない。
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