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「じゃあ……あっ、芹澤課長は!?」
隠していた切り札を登場させたかのような得意顔。
その視線の先には無表情でお酒を飲んでいる男がいて、感じの悪さで言えば、眉間に皺を寄せている私といい勝負だった。
しかし、その名前を聞いた瞬間に、身体中に悪寒が走った。
「絶対無理!あんな冷徹な狐目男!!」
「他の部署では人気あるんだけどなぁ……」
「それは、あの人の正体を知らないからよ!」
私は元々、広報部に配属していたのだけれど、2年前に営業一課に異動になった。
一課には泣く子も黙らす冷血漢の課長がいるのは噂で聞いていたが、まさにそれが芹澤課長だ。
話によると、無茶なことを注文してくる取引先の若手社員をフルボッコにしたり、営業企画書が気に入らないからとライターの火で燃やしたり、後輩の女子社員に極道ばりの辛辣な言葉を浴びせたりとか。
そこまでの仕打ちは今のところないにしても、嫌われているんだろうな、と思わされるような節は何度もあった。
事あるごとに、融通の利かないやつだと小言を欠かさないから。
だから私は、芹澤課長が正直苦手だ。
多分、虫と人参の次くらいに。
「あの人と付き合うとか、生きた心地しないわ……」
あまりの拒絶ぶりに、亜沙美は呆れたように笑う。
けれども私は、冗談だとしても全く笑えなかった。
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