8.囁きの始点

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「チッ!ついてねぇ」 パチンコ店から出てきた倉田剛(つよし)が、雨に文句を吐きながら、走る。 バシャバシャと大きな水飛沫が上がる。 「うわぁ💦おいっ!」 周りの迷惑など気にはしない。 少しでも濡れまいと、道の左の端を建物に沿って走っていた。 その時、ビルから出てきた信雄と激しくぶつかり、水の溜まった路面に派手に転ぶ倉田。 「だ、大丈夫か、君?」 「って〜な!どこ見てやがんだ、おらぁ❗️」 「ガンッ!」 手を差し出し、前のめりの信雄の顔面を、倉田の固い拳が弾き飛ばす。 「ぅがッ!」 壁に手を突木、うつ向いた信雄の口から、血と折れた歯が水面に落ちる。 背後で倉田が立ち上がる。 その気配に振り向く信雄。 その胸元を掴み、引っ張り、ボディへ膝蹴りをいれる。 「グッ…」 痛みに力が抜けた体を、路面に投げ転がす。 溜まった水が、大きな飛沫を上げる。 〜XYZ〜 ゲームは、プレイしない七海のせいで、直ぐに終了し、ドアが開く。 「七海ぃ〜どうしちゃったのよ、もう」 沙織のボヤきは聞かずに飛び出す。 ゲーム機の外で待っていた慎吾とぶつかる。 「いてっ!な、七海どうしたんだ?」 「お願い、どいて!」 「落ち着け七海」 出て行こうとする手を握って引き止める。 外は雷雨。溢れた水が、入り口から入り込み始めていた。 「どいて❗️」 「バシっ!」 七海の平手が慎吾の頬を叩く。 たまらず手を離す。 自動ドアをこじ開けて、七海が走り出る。 左斜め前にバスがいた。 「ダメ、止まって!」 叫びながら走る七海の前方で、信雄が転がる。 その信雄の顔は、駅の方を向いていた。 「バカ!止まれ❗️」 信雄を見た夕海が、一心不乱に走る。 歩行者信号はまだ赤であった。 「ギギーッ!」 バスが急ブレーキをかける。 大きな水の壁が、夕海を飲み込む。 その水の波を、追い越し車線から来た、白い車が…貫いた。 「バンッ!」「キャーッ!」 信号待ちの女性が悲鳴を上げる。 スポーツカーが止まり、窓を開けて転がって動かない「それ」を見た。 慌てて急発進したタイヤが、水飛沫を上げて空回りし、そのまま走り去って行く。 倉田もそれに気がつき、その場を走り去る。 七海は、その全てを見ていた。 激しい雨の中に立ち尽くす。 七海の体は…怒りに震えていた。
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