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9.シンクロニシティ
行き詰まる捜査。
名古屋市警としては、捜査本部を解散する動きが出始めていた。
元々、事故死となった事件。
そして、殺人未遂で拘留していた千佳も死亡した今、残るは拳銃窃盗犯の七海のみである。
しかし、この事件の恐ろしい真相は、まだ誰も分かっていなかった。
その頃、三人は笹原の家にいた。
「やっぱり、訓練する様な器具はないわね」
そう言いながらも、咲の勘は、この家に向いていたのである。
「綺麗に片付いてますね」
「だが…少々…綺麗すぎやしねぇか?」
咲も不自然さを感じていた。
生活感が感じられないのである。
(ん?)
リビングのソファーに座り、部屋の隅々を眺めていた咲の視線が止まる。
「どうした、咲?」
富士本は、咲をずっと見ていた。
「あそこ」
その指の先は、リビングに繋がる隣の洋室。
そこから半分覗いている大きなショーケースを指していた。
「凄いですよね、あれ全部七海さんの…」
「昴!窃盗犯を「さん」なんて呼ぶな!」
感情移入は捜査に油断を作る。
刑事経験からの一喝であった。
数学や暗記、哲学、歴史、民族、人間工学…ざまざまな検定や、コンクールの成績が並ぶ。
「中坊のくせに、大学レベルの学力だな」
「普通はそこに目がいくわよね💦全く、上手いカモフラージュだわ」
「えっ?」
「昴、そっちから押してみて」
「そんなの、転倒防止の固定…が…あれ?」
「ねぇな、こいつだけ」
他の家具は、全て金具で固定されていた。
昴が押す…と動いた。
「地下室とはな」
「昴!」
咲がアゴで指し図。
「えぇ〜💧」
「男でしょ!フンっ❗️」
諦めた昴。
真っ暗な階段をスマホライトで降りて行く。
「あらま?」
入り口のすぐ上のスイッチを押す咲。
照明の下に、恨めしげに見上げる昴がいた。
「……💦」
咲も下に降りる。
「な…何この部屋は…」
床も壁も天井も、全てが真っ赤であった。
その壁に、鎖や手錠など、怪しい器具類が並んでいる。
(この匂い…)
「富士本さん、待って」
降りかけた富士本を咲が止める。
バッグからライトを取り出す。
「電気を消して」
(この俺も昴と同じかょ、フッ)
笑みを浮かべて、スイッチを切る。
真っ暗な部屋で、咲がブルーライトを灯す。
「ひどい…」
富士本も降りて来た。
「やはりDVか…まるで拷問並だな」
ブルーライトに、部屋中に飛散した血痕が無数に浮かびあがっていた。
「あいつ!」歯を噛み締める咲。
「死人に腹を立てても、意味はねぇ」
「七海は、きっとこれも知っていた…」
富士本が鑑識に連絡をする。
咲の頭の中で、何かが形を現していた。
異様で禍々しい何か。
「富士本さん、ついでに三…上だっけ?本部でみんな待ってるように伝えて!」
(全く…)という表情はしつつ、伝える。
(事件は…まだ終わっていない…)
咲の嫌な予感が膨らんで行く。
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