9.シンクロニシティ

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〜千種駅前〜 16:27 「クソっ!今日もツイテねぇぜ」 パチンコ屋から出てきた倉田剛がボヤく。 そのビルの二階は、パチンコ屋も裏経営しているヤクザ、河内(かわち)組の本部になっていた。 倉田の前に、自転車が止まった。 「なんだぁ、お前?」 フードとサングラスで顔は良く見えない。 うつむいたまま、ポケットから拳銃を出し、躊躇することなく、二階の窓に二発撃ち込んだ。 唖然とする倉田に、まだ硝煙が上がるソレを軽く投げる。 条件反射で受け取る倉田。 フードの中の唇が、微笑んだのが見えた。 そして自転車は、脇道へと消えていった… 〜対策本部〜 「七海には、その能力があった。少なくとも一年前には」 「い…一年前だと?なぜそんなことが君にわかるんだ」 咲に、『あなたは気付いていたはず』と言われてから、三上は動揺していた。 (そんなんじゃあ、隠せねぇぜ、三上)  富士本が目を細める。 「XYZの今井店長から、連絡がありました。あいつ…七海を助けてやってくれ、ってね。昨夜はそこにいた様です。買い物をして戻ったら、もう居なかったと」 「今井のヤロウ、なぜ通報しなかった、共謀罪でしょっ引いてやる!」 「三上さん、七海が逃亡していること、ましてや拳銃を所持していることは、公開してないからムリよ」 「クッ!」 悔しがる三上。 「今井から一年前のことを聞きました。その時の七海の異常な行動の全てを」 「なんのことだ?」 「三上さんは、知らないでしょう。ろくに捜査もしなかったんだからね!」 「な、何を言うか、失礼な!」 「一年前、あの日、その時、七海はそれを止めようとしたのよ。おそらく、その繋がりを感じたんだと思うわ。でも、そんなことは分からない友達に引き止められ、間に合わなかった」 その悲しみ、悔しさが痛いほど分かった。 「さぁ、一年前のこと、話しなさいよ❗️」 咲の気迫にたじろぐ三上。 「三上、話してもらえねぇかな、頼むぜ」 富士本の鋭い眼光に、観念した三上。 重い記憶を話し始めた。 「丁度一年前。あの日も酷い豪雨だった。今回と同じあの場所で…七海の母、笹原夕海が車にはねられて死んだ」 「なんだと⁉️」驚く富士本。 「信雄に傘を届けに来た彼女は、信雄が、ぶつかってきた男に殴られるのを見て、おそらく無意識で走り出した。赤信号のまま。バスが急停車し、路面に溜まった水が、大きな波の様に彼女に降りかかり、追い越し車線を走って来た車からは見えなかった様で…」 「そのバスの運転手は、山口聡ね」 「…ああ、そうだ。それ以来山口は、夕立が降る午後勤はやめて、早朝からの勤務に変わった」 「はねた車は?」 「行き過ぎてから一旦停まった様だが、走り去り去った。ひき逃げ事故として捜索はしたが…白のスポーツカーの情報だけでは、見つからなかった…」 「…それって…、確か豊山豊のアパートへ行った時に、駐車場に白い二人乗りのスポーツカーがありました」 「調べて!」 「はい今から行ってきます」 「はねたのは彼ね。まさか七海がその娘とは知らないはずだし。…信雄を殴った男は?」 「目撃者は多く、すぐに分かった。倉田剛、七海と同じ中学の不良だ。暫く自宅謹慎の処分となった」 「その事故を、七海は見ていたのね❓」 「ああ…そうだ」 一年前の不運な事故。 それから、それぞれの一年を過ごした者の運命が、また同じ場所で交差した。 「そんな…そんな偶然って…」  昴が無気力に呟く。 「クソッ❗️そんな偶然はないわ❗️」 全てが分かった咲。 悔しさに拳が震える。 「七海は、声を失ったんじゃない」 感情剥き出しの声に静まる部屋。 「あの悪魔の声を、授かったんだ❗️」 「つ…つまり、咲…この事件は…」 珍しく富士本が動揺していた。 「七海がそれぞれの運命を操ったってことよ、クソッ!私も彼女の囁きを聞いた。こうして、その真実を…知らしめるためにね❗️」 全てが七海の作り上げた運命。 それに導かれていただけ。 「あの時、七海は渡り始めた二人の背後から近付き、気がついた涼音は、七海に傘を広げて貸した。その隙に、千佳の車で奪った包丁で…信雄を刺した。彼女の血はその時の返り血よ。頭から濡れていたのに、雨で流されなかったのは傘をさしていたから。そして、その血を私に見せるため」 「信雄のDVが全ての始まりか…」 「そして千佳は、七海をかばうためと、恨みの爆発で何度も信雄を刺した。それも七海の描いた運命とは知らずに」 「じゃあ…慎吾は…」 「テスト最終日に調子が悪かったのは、きっと彼女がその能力を試し、訓練していたため。最後に囁きが効かなかったのは、慎吾が前日に頭を撃ち、七海の作った運命にノイズが入ったからね。彼が最後に七海を引き止めなければ、間に合ったかも知れない…」 「恋人のフリをして、ずっと恨み続け、殺す予定だったってことか⁉️」 三上も、七海の恨みの深さに恐怖していた。 「…そういうこと…ね」 全員の背筋に寒気が走る。 「そして豊山は、一年前に夕海をはねた後、車を止めて後ろを確認した。その時に、七海の位置からは丁度顔が見えて、彼だとわかっていたってこと…」 全ての謎が解け、予想もしていなかった驚愕の真実が明かされた。 「どうした、咲?」 微かに首を傾けている咲。 嫌な予感がした。 「まだ…彼女は、どこかにいる」 「ま…まだ終わってないってことか?」 その時、静まった部屋に電話が鳴り響いた。
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