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ふと、前方で何かがチカチカと光を放っているのに気づいた。ここまで目立つ漂着物はけっこうめずらしい。それが何なのか気になり、わたしは砂に足をとられながら小走りで近づいた。
光っているそれまであと二メートル、というところではっきり確信した。鏡だ。手のひらに乗るくらいの丸いコンパクトミラー。遠目でも分かるくらいに光を反射しているということは、かなり良い状態だ。たいていは流される途中で割れたり、そもそも浜辺に漂着したりしないはず。しかしこの鏡はふたがついているということもあり、ある程度は衝撃を防ぐことができたのだろう。それでも、荒波にもまれながら浜辺に流れ着いたのに、割れずにほぼ原形を保っているのは本当にめずらしい。
それが鏡だとわかった時、わたしの胸はドキドキし始めた。港町のおばちゃんたちから聞いた言い伝えを思い出したからだ。
「海辺で割れていない、きれいな鏡を見つけたら、それは『乙姫の鏡』だよ。龍宮城の乙姫様の想いがこもってるから、あたしたち人間が住んでる場所まで無事に流れ着いたんだ。それをのぞき込むとね、『運命の人が映る』って言われててねぇ! あたしたちも若い頃は『乙姫の鏡』が流れ着いてないか、海岸を探し回ったもんだよ」
そう話すおばちゃんたちは、しわしわの顔をもっとしわくちゃにして笑いながら、何十歳も若返ったみたいにキャーキャーしてたっけ。
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