乙姫の鏡

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「運命の人、かぁ……」 言い伝えはあくまで言い伝えであって、鏡をのぞき込んだら自分の顔が映るに決まっている。頭ではそう理解していた。でも、胸のドキドキは高まるばかり。今まで告白したりされたりといったイベントに無縁ですごしてきたから、もしかしたら、今回の転校を機に新しい出会いがあるのかもしれない。まさに運命的な出会いをして、将来を誓いあって、一緒に幸せになって――そんな素敵な未来像を胸に抱きながら、一歩、もう一歩と鏡に近づいた。  鏡の手前でしゃがみこむ。これで小さな鏡に映る顔もはっきり見ることができる。鼓動が速くなり、顔が火照るのを感じた。ちょっと緊張しすぎじゃない? 軽く目を閉じて、深呼吸。バクバクと大きな音を立てていた心臓が、少しだけ大人しくなった。これでよし。「運命の人」の姿を見逃すまいと、わたしは目を見開いた。ゆっくりと身体の重心を前に傾け、そうっと鏡をのぞき込む。そこには――
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