お天気アプリ

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 *** 「ああいうアプリの利用規約とか」  ふあああ、とあくびをしながら、私は窓の外を見た。 「なんでみんな読み飛ばしちゃうんでしょうねー。結構大事なこと、書いてあったりするのに。……ねえ、梨央子ちゃん」  運動会の当日。私は学校に欠席の連絡を入れて、家でごろごろしていた。当然仮病である。運動会が嫌いなわけでもなければ、運動神経が悪いわけでもない。参加すれば絶対に短距離走で一位を取れる自信があったのに、それでもサボタージュを決めた理由はただ一つ。  今日、何が起きるか知っていたから。  そして、学校にいれば自分がそれに巻き込まれるとわかっていたから。 「澪さんも人が悪すぎません?」  メイドの少女が、紅茶を運んできながら言う。 「一言言ってあげればよかったのに。何が起きても知りませんよって」 「言っても聴きませんって。由羅(ゆら)さんだって知ってるでしょ、思い込んだ人間は一直線だってこと」 「まあ、そうなんですけど」  リビングのふかふかのソファーにすわりながら、まったりとテレビを見る。ニュースキャスターが険しい表情で報じているのは、とある田舎町の小学校が土砂崩れに飲まれて壊滅したという話だった。  私はちゃんと、梨央子に言ったというのに。最終的に叶うのは――“願った人数が多い人の天気”であると。  あの運動会。晴れを願った人間より、雨を願った人間の方が多かったということ。そして、夕方だけ降る“夕立”より、もっと早い時間から降る“土砂降り”を願った生徒が多かったこと。――それも、運動会が二度とできなくなってしまえ、と憎悪にも近く思った生徒が少なくなかったということだ。  だから、アプリは一番強い願いを叶えた。  彼等の望み通り、運動会も学校も、全てなくしてしまうほどの雨を降らせたのだ。 「想像以上の“夕立”ですねえ。梨央子ちゃん、原型をとどめた状態で見つかるといいんですけど」  利用規約の最後にはちゃんと書いてあげたというのに。――このアプリを使用すれば最後、命を失う結果になる可能性がありますがよろしいですか?と。まあ、とても小さい文字で、他の要項と一緒に長ったらしく難しい言葉で書いた自分も確信犯だが。 「人の幸せな願いを自己都合で踏みにじろうとすると、そういうことになるんですよ梨央子ちゃん。次に生まれてくる時は、もう少し後先を考えましょうねえ」  さてさて。次はどこで誰と、どんな暇つぶしをしようか。
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