お天気アプリ

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「で、先週ってまだ梅雨明けてなかったし、その週はずーっと雨降ってたんですよ。でも、運動会の日だけびっくりするほど晴れてたっていう」 「あー……」  そうだったかも?と私は記憶を辿る。そもそも隣の学校の運動会なんか興味はないので、よく覚えているはずもないのだが。 「あれも、このアプリ使った子がいるからって噂です。最大で二十四時間、お天気を操ることができるらしくって……あったあった、これだこれ」  彼女はほら!と私にスマホ画面を見せてきた。アプリストアに表示されているのは、“お天気アプリ”と書かれた一つのアプリだ。オレンジ色の、お日様マークのアイコンが妙に可愛らしい。 「容量もそんなに重くないみたいだし、とりあえずインストールしてみたらどうでしょ?本当は私がインストールして先に効果を試したいんですけど、できないんですよね」 「なんで」 「エフエフクエスト10をインストールしちゃったせいで、空きが一切ないです。先日課金して親に叱られました」 「あー」  あるあるある、と苦笑いするしかない。数あるアプリの中でもゲームアプリが重いのは言うまでもないことである。あれはアプリ本体もデータも重いし、ついでにキャッシュも重いのが基本だ。キャッシュクリアしてもクリアしても溜まるのでまったく節約にならない、というのは私も自分で経験して知っていることである。  そもそも、もしお天気を変えるようなアプリが本物だとしても、彼女自身は試す必要など本来ないのだ。――この話はそもそも、私が“運動会の組体操がやりたくない、中止になってほしい”とごねたことが理由なのだから。  まさかその解決法として提示されたのが、“アプリを使って雨を降らせてしまえばいい”と来たのは完全に斜め上だったわけだが。 「……本当に効果あるの?」  私は半信半疑で、彼女から携帯を受け取った。 「隣の学校の子がー、っていうのも噂なんでしょ。大体、晴れにして欲しいって願った子と、雨にして欲しいって願った子が両方いたらどうなんのか疑問じゃない?」 「そういう場合は、願った人数が多い方が叶うらしいですよ。でもって、同人数が同じ日に同じ場所の天気を願ったら、ランダムでどっちかの願いが叶うって書いてありますね」 「胡散くっさー……」  正直、全く信じられない。私のそんな思いは完全に顔に出ていたのだろう。澪はまあ、と肩をすくめて言った。 「別に嘘なら嘘で、試しても損はないんじゃないですか?組体操、やりたくないんでしょ」 「まあ、そうだけど」  そう。こんなアプリなど一切信じていないのに、私の気持ちが揺らぐ理由など一つだ。  運動会なんて、好きじゃない。もっと言うと、組体操が大嫌いだ。  多くの学校で危険だからと中止の動きが広まっているのに、何でうちの学校だけこんな嫌なものが残っているのだろう。怪我でもしたら、一体誰が責任を取ってくれるというのか。
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