a face under the fake

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「お待たせしました 」  声に少し棘を含んだことに気づかれてしまっただろうか。むしろ気づいてくれた方がいいのかもしれないけれど。  私は大袈裟にどさっと完了した分の書類の束をこれ見よがしに佐伯君のデスクの上に置いた。  昼休みの中弛み感がまだ抜け切らないオフィスに一瞬だけ緊張が走る。  結局、すぐに必要になるものから優先して午前中に仕上げられたのは3分の2ほどで、残りの3分の1はまだ手付かずのままだ。とりあえずそのことだけは伝えておく。  佐伯君がふっと一瞬こちらに視線を向ける。その冷ややかな瞳に少しだけたじろいでしまう。  そして私の反応など気にも留めずに、目の前に積まれた書類の山に視線を移した。  佐伯君は視線だけを上下させながら斜め読みしているような速さでつらつらと書類に目を通していく。パラパラと紙をめくっていく音が冷ややかに耳に刺さる。  佐伯君の前には次第に二つの山が出来上がっていく。一つは合格の山で、もう一つはボツの山だ。  そして、やはりというか、私が業務範囲外なのにと思いながら試行錯誤して完成させたものはボツの山にどんどん積み上げられていく。  そして、ボツの山に積み上げられたものは結局は佐伯君の手が加えられて仕上がることになる。ならば最初から自分ですればいいのにと思わずにはいられない。 「こっちはいいから、次はこれお願いします 」  すべてに目を通し終わると、佐伯君はへらっと感情の薄い笑顔を私に向けて、さっき私が提出した「課題」よりも少し多いくらいの書類をパソコン越しに差し出してきた。 「じゃ、よろしく、ハル 」  佐伯君はそう言って何事もなかったかのようにまたパソコンの方に視線を戻した。  今日は残業か、と覚悟した瞬間だった。
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