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Secretノートでのやりとりで、美南の入院している病院の名前はわかっていた。
電車を2時間乗り継いで私はその病院に向かった。
午後の強い日差しが差し込む中、やっと到着した病院は、私の身体にとっては初めての場所だったけれど、見慣れた場所に思えた。
白く大きな病院の自動ドアを抜けて、階段をゆっくりと登った。3階にたどり着く。
階段から左に進んで3番目、何度も見た部屋だ、見間違えるはずがなかった。
しかし――、部屋の入口にある入院患者を示すネームプレートは見慣れたものとは異なっていた。
そこに「志田美南」の名前はなかった。
ドアを開けてみると、部屋の中には誰もおらず、白いシーツの敷かれたベッドだけがあった。
ふと正面の窓ガラスに水滴が当たるような音がした。
夕立だ。
雨が窓ガラスを濡らす。
跳ね返る水滴が不規則なリズムを生み出す。私はいつかこの目に見える世界が歪むんじゃないかと立ち尽くしていた。
しかし、世界が歪むことはなかった。
「美南」
彼女の名を呼んだとき、世界が歪んだ。
しかし、私は私のままだった。
世界が歪んだのは、自分の涙のせいだった。私は私として生きていくしかないのだと悟り、私は私しかいない病室の床に膝から崩れ落ちた。
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